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投資・運用 個人株主新時代

個人がプロに勝てる時代 各種ツールで少額投資も手軽に 福島理

 個人投資家向けの金融サービス・ツールが急速に充実している。これを利用しない手はない。

>>特集「個人株主新時代」はこちら

 2024年3月、日経平均株価はバブル後最高値を更新し、4万円の大台を達成。5月には米ダウ平均株価が、史上初の4万ドルを超えるなど、世界的な株高となっている。特に日本市場は、東京証券取引所が株価、株主利益を意識したコーポレートガバナンス改革を上場企業に求める一方で、日本経済は緩やかなインフレの定着、昨年を上回る賃金上昇の期待が高まっている。これら国内要因に加えて、米国株上昇や円安といった外部要因が、日本の株価を押し上げている。

 さらに、24年1月から始まった新NISA(少額投資非課税制度)は、多くの国民を投資家にし、投資ブームを引き起こしている。東証プライム市場(旧東証1部)の委託売買代金における個人取引の比率は、通常10%後半から20%前半で推移するが、24年1月に27.5%を記録。以降、25%超えで推移している(図)。

個人投資家の強み

 依然として、外国人投資家の比率はおおむね65%を超えており、相変わらず日本株市場への強い影響力を持つ。だが、国内個人投資家には、外国人や国内の機関投資家などプロにはない強みがあり、それが、日本の株式市場をけん引する可能性がある。

 一つ目はフットワークの軽さだ。小口の取引が主体の個人は買いたい時に買いたい量を、売りたい時も売りたい量を取引できる。個人でも時価総額が小さい銘柄の場合は株価が動く可能性はあるが、自分で判断できるので、売買までの時間が短縮できる。一方、プロの投資家は運用資金の規模が非常に大きいため、多くの銘柄で一度に買いや売りを入れてしまうと、株価がストップ高・安になってしまう。また、プロは、銘柄選択、投資タイミングなどの決定を勝手に一人ではできない。資料作成や議論を行う時間が必要で、投資判断まで時間を要する。このため時間を分散して売買する必要があり、場合によっては数日間に分けて売買しなければならない。

 二つ目は、個人はネット証券であれば、日本株だけではなく、外国株、投資信託、国内外債券、FX(外国為替証拠金取引)、先物・オプション、CFD(暗号資産、コモディティー)、金(ゴールド)など、組織の制約や方針に縛られることなく、自分の自由なアイデアで好きな商品を選び、好きなタイミングで投資できる。それに対し、プロの投資家は、通常、戦略に基づき組織で決められた商品に投資するよう、仕事として任される。自分で勝手に投資先を変更することは基本的には難しい。このため、利益の上げづらい期間や商品であっても、何とか利益を出さなければならない。

 さらに、プロは四半期中、あるいは1年間の短期間で一定の利益を出さなければならないプレッシャーがある。この銘柄は5〜10年後に大きく上昇すると確信していても、今年の運用成績が悪ければ、それを理由に会社を去らないといけない可能性もある。運用会社の中には、ある程度の下落率になると、強制的に損切り(損を承知で株を売却)するルールを設けている場合もあり、嫌でも損失が確定してしまう。

 その点、個人投資家は、基本的に短期的な利益追求のプレッシャーがない。早めに利益確保もできるし、タイミングが悪ければ長期保有するなど、戦略変更はいつでも可能だ。個人は株を保有し続けることが可能であり、一時的に評価損が膨らむかもしれないが、上昇するまで待つこともできる。長期的に成長が期待できる銘柄にじっくりと目を向けることもできるし、情報収集や銘柄分析などに、時間的、心の余裕を持って臨むこともできる。

 また、株主優待を十分に堪能できるのも個人投資家のメリットだろう。株主優待は日本独自の制度で、海外ではほとんど見ることがないが、投資先企業の製品やサービスの割引購入を可能とするなど、個人にとっては魅力的なものが多い。だが、これはプロの機関投資家には基本的に意味がない。投資信託を運用するファンドマネジャーが株主優待をもらっても、基本的に換金可能なものは換金してファンドに戻し、換金できない割引券や食料品、日用品などは、寄付などするしかないからだ。

プロ並みの取引ツールも

 こうした個人ならではのメリットに加え、金融機関から提供される個人向けサービスのレベルは年々上がっており、昔では考えられないような投資環境が整っている。

 取引・保有のコストも、かなり安価に設定されており、新NISA口座での取引では、売買手数料がかからない金融機関もある。日本株などを売買するために必要な投資情報は、パソコンやスマートフォンで手軽に取得することができ、現在はスマホアプリだけで、口座開設から入出金、注文、約定・残高照会までの取引が全てできる。

 金融機関では、オンラインのライブセミナーや、ユーチューブでのマーケット情報提供など、動画コンテンツの制作に力を入れており、個人も投資情報に全く困らないレベルにきている。個人投資家が利用できるパソコン版の高機能取引ツールは、自分のパソコンにダウンロードして利用する形式で、自分好みにカスタマイズできる。リアルタイムの板情報やさまざまな分析・注文機能、市況・決算ニュース、ローソク足チャートを表示した上で、数十種類のテクニカル指標を組み合わせることができる。プロが利用するツールとほぼ変わらないレベルだ。

 売買単位もより少額で始められる。投資信託は金融機関によって異なるが、100円から購入が可能だ。以前は一括購入が基本だったが、現在は積み立てが主流で、積み立てのタイミングも毎月が基本だが、ボーナス月に増額や、毎日の積み立てができるなど、個人のお金事情にあった積立投資が可能だ。

ファストリでも4万円から

 日本株の投資も1株から取引できる「単元未満株取引」があるため、最低購入金額の大きい値がさ株でも、ファーストリテイリングなら約4万円、ソニーグループは約1万2000円、三菱UFJフィナンシャル・グループはもっと安く約1500円から買うことができる。10万円あれば5〜10銘柄に分散投資できるので、少額でのリスク管理が可能だ。

 また、保有する株を金融機関に貸し出して利息を受け取る「貸株サービス」は、金融機関や銘柄によって異なるが、利息が年率10%超になるものもあり、長期保有者には重宝する。

 最近、注目されるのは、クレジットカードを利用した積立投資で、主な投資商品は投資信託だ。積み立てと同時にポイントをためることができ、ポイント還元率も1%を超える場合がある。投資資金の1%分が利益として上乗せされたイメージで投資したことになり、使わない手はない。

 クレジットカード積み立ては、3月から月額上限額が10万円に引き上げられ、10万円に設定する投資家が増えてきている。新NISAのつみたて投資枠、成長投資枠の双方に対応している。ポイントを日常生活で使うことは当たり前になっているが、最近、金融機関ではポイントサービスに力を入れているので、日本株取引や投資信託購入でポイントをため、それを投資に回したり、さまざまなポイントサービスに交換が可能だ。金融機関によってはポイントで寄付もできる。

 政府の「貯蓄から投資へ」、岸田文雄政権が掲げる「資産所得倍増プラン」は、国民にとって、将来の生活を守るための資産形成を後押しする施策だ。画期的な改正を行った新NISAをはじめ、iDeCo(個人型確定拠出年金)改革、企業従業員の資産形成の援助、金融リテラシー向上のための金融経済教育など、個人投資家をサポートする施策が次々と打ち出されている。金融機関が提供する個人投資家向けサービスは、さらに進化が予想されており、個人が株式などの市場でプロ投資家に勝つ土俵が、ここにきて急速に整いつつあるといえよう。

(福島理〈ふくしま・ただし〉マネックス証券マネックス・ユニバーシティ室長)


個人投資家が利用したいサービス、サポートツール

①投資情報ツール

 マーケット情報からファンダメンタルズ情報、アナリストリポートや関連ニュースなど、投資をサポートするさまざまなツールが各金融機関で提供されている。動画での情報発信も多くユーチューブチャンネルを開設してサービス提供している会社も多い。また、メールサービスだけでなく、SNSでの情報発信も増えてきており、時代にあったサービス展開がされている。

②高機能取引ツール(パソコン用)

 投資初心者からアクティブ・トレーダーまで使える豊富な機能とスピーディーな発注を追求したツール。リアルタイム株価はもちろん、板情報やチャート、ニュース、ランキング、残高などさまざまな情報を1画面に表示することができる。長年、改良を重ね、現在はプロの投資家が利用しているツールと遜色ないところまできている。

③スマホアプリ

 日本株のみならず、外国株、FX、暗号資産など、さまざまな投資商品をスマホアプリで取引できる。情報収集から注文の他、残高照会や入出金までできるため、パソコンを使わずにスマホアプリだけで売買が可能。リアルタイム情報を元に、いつでもどこでも利用できるため利用率は年々上昇。

④単元未満株取引

 日本株の売買単位は100株で統一されており、100株、200株、300株と通常は100株単位で取引する。しかし、株価が1万円の銘柄を買おうとした場合、100株からの取引になるため最低でも100万円が必要なる。これではハードルが高くて買えない場合、100株よりも少ない1株、10株などの単位で投資ができるサービス。保有数に応じて、配当金を受け取ることもでき、銘柄によっては株主優待ももらえる。

⑤貸株サービス

 貸株サービスは、投資家が保有している株券等を金融機関に貸し出して、これに見合う貸株金利を受け取ることができるサービス。例えば、貸株金利が年率1.0%の銘柄を300万円貸し出した場合、1年間で3万円の金利が得られる。利息は金融機関や銘柄によって異なるが、年率で0.1〜10%超になるものまで幅広くある。

⑥クレカ積み立て

 クレジットカードを利用した積立投資で、積み立てと同時にクレジットカードのポイントをためることができるため、近年注目度が高まっている。2021年ごろから主に証券会社で投資をすることが可能になり、今年3月には上限金額が月5万円から月10万円に引き上げられ更に注目が集まっている。ポイント還元率は1%を超える金融機関もある。

⑦ポイントサービス

 各金融機関でポイントサービスの導入が増加している。株式取引や投資信託の保有、各社で実施しているキャンペーンなどでためることができ、そのポイントは更に投資に使ったり、Amazonポイントや、dポイントなどの他社ポイントサービスに交換することが可能。サービスの内容は各社さまざま。

⑧お得キャンペーン

 各金融機関に新たに口座開設するときや、株式、FXなどの投資商品を取引することを条件にしたキャンペーン、誰でも応募ができるオープン懸賞キャンペーンなどを各社実施している。取引にかかる手数料がキャッシュバックされたり、Amazonギフトカードなどの金券、各社のポイント、旅行、カタログギフト、書籍、オリジナルグッズなど多種多様なプレゼント商品が用意されている。最近はSNSを利用したキャンペーンも増加。

(出所)各社資料を基に筆者作成


週刊エコノミスト2024年6月11・18日合併号掲載

個人株主新時代 値がさ株でも少額投資可能 個人がプロに勝てる時代に=福島理

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