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国際・政治 エネルギー

日本のLNG調達価格は原油連動で割高 貿易赤字が膨らむ要因に 岩間剛一

東京ガスの根岸LNG基地に停泊するLNG船(Bloomberg)
東京ガスの根岸LNG基地に停泊するLNG船(Bloomberg)

 LNG(液化天然ガス)の安定供給を重視する日本は、原油価格連動の長期契約が多い。輸入の1割はロシア産LNGが占めており、供給途絶のリスクも抱えている。

豪露産LNGは割高でも安定供給が続くとは限らない

 米国の天然ガスの指標価格ヘンリーハブと、原油の指標価格WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が大きく乖離(かいり)している。こうした乖離は、原油価格連動の長期契約である日本のLNG(液化天然ガス)輸入価格を相対的に割高にさせており、日本経済の安定化やエネルギー安全保障の観点からもより安価で安定的なLNG調達の重要性を浮き彫りにしている。

 ヘンリーハブは今年3月、一時百万BTU(英国熱量単位)当たり1.5ドル台の安値を付け、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な需要減少の時期を除けば、21世紀に入って最安値を記録している。21世紀初頭には米国の天然ガス価格は、百万BTU当たり10ドルを超えていたものの、シェールガス革命によって米国は世界最大の天然ガス生産国となり、天然ガス価格の流れが変わった。

 米国では脱炭素の流れの中、炭酸ガス排出量が石炭の半分程度のシェールガス開発が好調で、生産量が史上最高となっている。また、欧米諸国の昨冬の気候が温暖で、暖房用、発電用の天然ガス需要が伸び悩み、米国の今年4月の天然ガス在庫量は前年比で2割程度も多い。加えて、バイデン米政権が今年1月、シェールガスを原料としたLNGの新規輸出を凍結すると表明し、天然ガスの余剰感がさらに価格を押し下げている。

 一方、WTIは現在、1バレル=80ドル前後の高値圏で推移している。ロシアのウクライナ侵攻に加えて、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの戦闘など中東情勢の緊張化が背景にあり、熱量換算で比較すると天然ガス価格は1バレル相当9ドル、原油価格は1バレル相当90ドルと10倍もの格差をもたらした。米国では天然ガス価格が原油価格に比べてあまりに安価なことから、一部のシェールガス生産企業は新規投資計画を抑制している。

欧州へ向かう米国産

 LNGの安定供給を重視する日本は、LNG輸入の7~8割が原油価格連動の長期契約で、米国のヘンリーハブ渡し価格が指標のLNG輸入量は1割に満たない。米国のシェールガスを原料とした百万BTU当たりのLNG価格は、計算式に従うと「ヘンリーハブ価格1.5ドル+液化コスト2.5ドル+運賃と保険料2.5ドル=6.5ドル」だが、日本のLNG輸入価格は百万BTU当たり12ドルを超え、割高なLNG輸入を余儀なくされている。

 機動的なスポット価格の安さを重視するアジアの他国と比較しても、中国、韓国、台湾のLNG価格は百万BTU当たり10ドル程度である。また、欧州諸国の天然ガス価格も暖冬による需要の減少により、今年4月時点で平年に比べ十分な在庫があるため、オランダTTF価格は百万BTU当たり9ドル程度と落ち着いている。つまり、日本の天然ガス価格は今年春の時点で世界一の高値であり、昨年の貿易赤字の大きな要因ともなっている。

 米国は2023年にカタール、豪州を抜いて年産8500万トンに達する世界最大のLNG輸出国となったが、日本が安価な米国産LNGを調達するのは容易ではない。脱ロシア産天然ガスを進める欧州は米国からのLNG調達を拡大しており、米国から日本へのLNG輸出は逆に減少している。米国メキシコ湾沿いのLNG輸出基地は、パナマ運河を通るアジア諸国よりも大西洋を渡る欧州諸国のほうが地理的に近いというメリットもある。

 日本のLNG調達で大きなリスクとなっているのが、ロシア産の輸入である。日本はロシアへの制裁にG7(主要7カ国)の一員として歩調を合わせるものの、LNG輸入の1割は原油価格連動のロシア産が占めており、米国産LNG輸入量の1.6倍もある。これまでの安定供給を重視する原油価格連動の割高なLNG輸入に過度に依存することは、電気料金上昇にとどまらず日本のエネルギー安全保障にもインパクトを与える。

きしむカタールとの関係

 第一に、ロシアが日本の制裁への報復を行い、ロシア産LNGの供給が途絶するリスクが挙げられる。すでに、三井物産、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が10%出資する、ロシア北極圏のLNGプロジェクト「アークティック2」に対する米国の制裁により、日本側はアークティック2への参加を停止している。アークティック2からの年間200万トンのLNG輸入も見通しが立っていない。

 第二に、長期契約についても、カタールの新規LNGプロジェクトが稼働するのは26年以降となり、それまでは国際LNG需給は恒常的に逼迫(ひっぱく)する。加えて、日本では脱炭素の流れから長期的な天然ガス火力発電需要が見通せないと判断し、東京電力と中部電力の合弁企業JERAは21年、年間550万トンのカタールとのLNG長期契約の更新を見送ったため、カタールとの関係がギクシャクしている。

 第三に日本にとっての最大のLNG輸入国である豪州について、豪州国内の経済成長と天然ガス需要の増大によりLNG輸出を抑制する動きがある。また、脱炭素政策から新規LNGプロジェクトへの投資に慎重な姿勢を見せており、今後の豪州からのLNG追加調達に不透明感がある。これらの点を考慮すれば、新規の拡張工事が積極的に行われている米国のLNG輸入の強化が重要となってくる。

 不安定な中東情勢が今後も続くことなどを考えれば、割安な米国の天然ガス価格と割高な国際原油価格の乖離は24年中には解消しないと考えられる。石油、天然ガスは今後も依然として重要なエネルギーであり、特に天然ガスは脱炭素への移行期のエネルギーとして重要性が増している。いかに割安なLNGを米国など地政学的に安定した国から輸入するのか、日本の資源エネルギー戦略の知恵が問われている。

(岩間剛一〈いわま・こういち〉和光大学経済経営学部教授)


週刊エコノミスト2024年6月25日号掲載

原油と乖離する安値の天然ガス 割高LNGを買い続ける日本=岩間剛一

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