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国債買い入れ「減額」で金利上昇圧力と円安圧力を抑えたい日銀 加藤出
日銀は6月の金融政策決定会合で国債保有額を縮小する方針(量的引き締め)を決定した。しかし実際の減額ペースが確定するのは、債券市場参加者にヒアリングを行った後の7月会合になる。“生煮え”の状態でそれが今回発表された背景には大きく二つの要因があるだろう。
第一に、今回もし日銀が何も発表しなかったら円安圧力が強まった恐れがあり、時間稼ぎが必要だった。第二に、異次元緩和以降の日銀は国債を膨大に購入して長期金利を抑え込んできた。日銀保有国債残高の名目GDP(国内総生産)比は異次元緩和前の2013年3月は18%だったが、今年3月は98%だ。債券市場の混乱を回避しながら国債買い入れ額を減らす加減は非常に難しい。かといって水面下で市場関係者に買い入れ減額の程度について聞き始めたことがうわさになると、疑心暗鬼で長期金利が跳ね上がる恐れがあるため、今回こういった落としどころになったのだろう。
7月利上げの「窓」
日銀は3月にマイナス金利だった政策金利をほぼゼロ金利に引き上げ、YCC(イールドカーブ・コントロール)も同時に廃止した。しかし国債の金利暴騰を恐れる日銀は、今後の政策金利引き上げは非常にゆっくりであること、国債買い入れ額はYCC実施期と変わらない月間6兆円弱でいくことをアピールした。
ところが為替市場参加者は、「膨大な国債発行額の中、この国の中銀は機動的な政策運営ができない」と的確に見抜き、円安が進行した。円安に伴う生活コストの高騰に怒る世論に政府は困惑し、それが今回の日銀の量的引き締め決定につながったと考えられる。
ちなみに海外中銀が現在実施している量的引き締めのスピードを見ると、2年経過時の保有証券残高は米連邦準備制度理事会(FRB)で23%減少、英イングランド銀行は20%減少である。もし日銀が同ペースで保有国債を減らそうとするなら、月間の国債買い入れ額を3分の1の2兆円程度へ減らす必要が生じる。しかしそこへ急に進んだら、長期金利にかなりの上昇圧力を加える恐れがある。
一方で植田和男日銀総裁は6月14日の記者会見で「減額をする以上、相応の規模となる」とも述べている。市場になじませながら減額スピードを段階的に高めていく手法をとるなら、当初は月間買い入れ額を5兆円前後へと減らし、徐々に月4兆円へと減額、1~2年後に市場や経済が許容できるのであれば3兆円など一層の減額へ進む、という可能性が考えられる。ただし、それには政府サイドに国債発行額残高を無節操に増やしていかない努力も求められる。
今回の記者会見で植田総裁は7月の利上げを否定しなかった。これは円安けん制が狙いであり、現時点で日銀がそれに前のめりになっているわけではないだろう。しかし、状況次第で動けるように説明上の「窓」を今回開けたのは事実といえる。7月に円安が進む場合は注意が必要だ。
(加藤出・東短リサーチ・チーフエコノミスト)
週刊エコノミスト2024年7月2日号掲載
日銀の金融政策決定会合 生煮えの国債買い入れ減額 円安圧力を抑える時間稼ぎ=加藤出