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教養・歴史 書評

なお東大が学歴の頂点である中、一兵卒として戦死した東大出身者に注目 井上寿一

 東京大学の授業料の値上げが議論になっている。学内での賛否はともかく、学部の大学(とくに私立大学)の関係者が値上げを是とする意見には、授業料の格差是正をとおして、東大との社会的な地位の格差の是正をめざしているのかと勘繰りたくなる。東大を唯一の頂点とする学歴のピラミッドは、明治時代から形成されている。尾原宏之『「反・東大」の思想史』(新潮選書、1980円)は、豊富なエピソードと微苦笑を誘う軽妙な筆致で、このピラミッドに対する他大学や大学内からの挑戦の軌跡とその結果を描いている。

 慶応義塾や一橋は実学教育で独自性を主張した。大学をモラトリアム期間として積極的に肯定することで東大とは異なることを訴求したのが早稲田だった。キリスト教の精神に基づく同志社も東大には持ちえない建学の理念があった。1930年代には東大内から日本主義者による批判が過熱した。「70年安保」の際は東大全共闘が「大学解体」を叫んだ。

 100年以上にわたるこのような東大への挑戦にもかかわらず、東大を唯一の頂点とする学歴のピラミッドは、今も揺るがないどころか強化されている。

 このピラミッドはどうにかならないものか。興味を引いたのは、田中角栄の東大を地方に移転させるとのアイデアである。東大の優位性の一つが東京にあるからだ、そうだとすれば東京の外に移転させれば格差は是正される。しかし東京一極集中が続くなかではそれも無理だろう。

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