「実質賃金マイナス」は昭和を引きずった分析 現実の経済は明るさ兆す 藻谷俊介
厚生労働省の毎月勤労統計が示す日本の1人当たり実質賃金は依然として前年同月比ではマイナスであり、インフレに賃金の伸びが追い付いていない、という報道が続いている。
しかしこのコラムで筆者は、法人企業統計の人件費などの総額ベースで見る賃金の伸びはインフレ率を上回っていることを示してきた。毎月勤労統計は世帯主1人で稼ぐ“昭和モデル”に基づく分析で、ここで示される実質賃金のマイナスをそのまま受け取ることは、今日では悲観的過ぎると主張してきた。今回は改めて両者の違いを説明し、直近の動向に触れてみたい。
家計における収入の複線化の進展を如実に示すのが、総務省家計調査における分類別の世帯収入である(図1)。
そこでは世帯主、配偶者、その他世帯員の三つに分けて収入を見ることができる。世帯主と配偶者という呼称そのものが昭和を引きずっているが、図1が示すように、世帯主の収入の伸びは鈍いが、配偶者やその他の伸びは非常に大きい。
誤解がないようにしたいのは、これは賃上げに差があったのではないということだ。標本世帯において、外から収入を得る配偶者やその他世帯員の人数が増えたことによって、収入が増えたのである。
結果として家計は潤った。図2は1世帯全体の収入の推移を示すものだが、インフレを差し引いた実質で見ても昨年後半からは上昇に転じており、インフレに勝ち始めたことが示されている。今後はベアも一部に加わって…
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週刊エコノミスト
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