円安で加速するか製造業の国内回帰 渡辺浩志
円安は、家計には不評だが、企業にはプラスといわれる。
たしかに、この歴史的な円安局面でも、企業は値上げ(価格転嫁)によって、過去最高の売上高経常利益率(日銀短観の全規模・全産業ベース)を記録した。
だが、輸出数量は伸びていない。日本の製造業はかつて円高が長引いた際に、その影響を受けにくい体制を築くべく、生産拠点を海外へ移した。これにより今は、円安に転じてもその恩恵を受けられなくなった。また、海外生産の魅力の一つだった人件費の安さも、現地の賃金高騰と円安によって失われつつある。そのため、現在の円安が定着すると企業が確信すれば、海外志向の立地戦略は書き換えられよう。
現在の円安は米国の底堅い景気と高金利に由来している。米国のインフレは粘り強く、今後の利下げは小幅にとどまりそうだ。他方、日銀は円安対応もあって利上げへと向かうが、実質賃金と個人消費の回復は鈍く、その幅は限定されよう。日米金利差の縮小は小幅にとどまり、円高が進んだとしても、1ドル=145円近辺までだろう。円安基調が続く公算は大きく、企業もこの流れにあらがうよりも順応する方が得策との見方に傾いていると思われる。
為替動向に3年遅れで動く
企業戦略の変化は、設備投資行動に表れる。設備投資の国内比率が下がれば生産拠点の「海外移転」、上がれば「国内回帰」となるが、国内設備投資比率は、為替レートの上下動に3年遅れで動いてきた(図1)。…
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週刊エコノミスト
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