対談 超大国なき世界の新秩序を探る 問われる日本の理念構想力 田中直毅×黒田東彦 ①(1994年1月11日)
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1994年1月11日号に掲載した田中直毅氏と黒田東彦氏の対談「超大国なき世界の新秩序を探る 問われる日本の理念構想力」を2回に分けて再掲載します。(記事中の肩書、表記等は全て当時のままです)
冷戦体制の崩壊後、世界は、新しい国際秩序をいまだに生み出しえていない。冷戦の“戦勝国”であるはずのアメリカもかつての力を失い、リーダーの座を自ら降りようとしている。戦後、半世紀を経た国際政治、経済システムにほころびが目立ちはじめたいま、世界はどこへ向かうのか、その中で、日本はこれまでのように、経済至上主義でいいのか。(2回に分けて掲載し、今回はその1回目です)
大戦後半世紀
田中 1994年という年は、20世紀の流れから見て、大きな節目になるのではないか。第二次世界大戦が終わってから50年目を迎え、国連が発足して50年目になる。国連憲章が制定されたのは、太平洋をはさんでアメリカが日本と対峙していた1945年7月のことだった。核不拡散条約も95年でいったん終わる。主要国は、その後も条約を継続することにしているが、95年に条約がどういう形をとるのか、不透明なところもある。
さらに、1975年にランブイエから始まった先進国首脳会議、サミットは95年のカナダで3ラウンドが終わる。先進国サミットも当初の役割をとりあえず果たし、転機を迎えている。4巡目をやるのかどうか。大戦後の経済秩序の枠組みを決めたブレトンウッズ協定は、今年が50周年だ。
こうした戦後世界史の節目の年を前にして、93年中にウルグアイ・ラウンドを一応終え、94年にはそれ以降の国際貿易、あるいは国際金融システム、国際政治システムを新しい時代にふさわしいものにどうやって変えていくかというテーマに取り組まねばならない。
ちょうどそれに合わせて、日本の政治システムも93年に変わった。世界的変革の最終列車に一応は間に合ったということだろう。しかし、今後、脱線するかもしれない。
世界が新たな秩序、フレームワークを模索しており、日本はそうした国際システムの中でどういう役割を果たすのか、という課題に直面している。
黒田 戦後史を振り返ったとき、印象的なのは、戦争中にすでに大戦後の国際的な政治経済の秩序の枠組みを連合国が議論していたということだ。
実は冷戦も、もちろんこれはふつうの戦争とは違うが、一種の戦時体制だった。それが急に終わってしまった。…
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週刊エコノミスト
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