対談 超大国なき世界の新秩序を探る 問われる日本の理念構想力 田中直毅×黒田東彦 ②(1994年1月11日)
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1994年1月11日号に掲載した田中直毅氏と黒田東彦氏の対談「超大国なき世界の新秩序を探る 問われる日本の理念構想力」を2回に分けて再掲載します。(記事中の肩書、表記等は全て当時のままです)
冷戦体制の崩壊後、世界は、新しい国際秩序をいまだに生み出しえていない。冷戦の“戦勝国”であるはずのアメリカもかつての力を失い、リーダーの座を自ら降りようとしている。戦後、半世紀を経た国際政治、経済システムにほころびが目立ちはじめたいま、世界はどこへ向かうのか、その中で、日本はこれまでのように、経済至上主義でいいのか。(2回に分けて掲載し、今回はその2回目です)
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田中 黒田さんは先進国経済サミットにかかわってきたが、アメリカの対応や、それに対するヨーロッパの反応を見て、巨大なパワーが一つ欠けてしまった、という印象を持ったことがないだろうか。
黒田 私も何度かサミットの裏方をやったが、ここ数年の動きを見ると、アメリカの決定的なヘゲモニーはかなり弱くなったという感じがする。たとえば、ロシアの経済支援でも、デモクラシーの実現と市場経済化の促進という点では、アメリカの考える方向をドイツを中心とするヨーロッパと日本がサポートした。しかし、それはアメリカの言う通りにやるというのではなく、日本は日本なりに、ヨーロッパの国はヨーロッパの国なりにいろいろなことを言って、その中で合同決定した、という感じだ。
サミットには先進7カ国の団結の内外への誇示、という意味があるのだが、議論の進め方などを見ると、ドイツの影響力が強くなってきているし、日本の影響力も増してきている。
田中 G7でも、アメリカの影響力は必ずしも大きいとは言えないのだろうか。たとえば、1980年代の累積債務問題で、米財務長官(当時)のブレイディによる構想が出されたが、あれは、宮沢(前首相)構想に近い内容だった。
黒田 累積債務問題の直接の引き金になったのは80年前後のアメリカの金融引き締めによる高金利、ドル高だった。途上国の収支が次第に悪化していき、メキシコが1982年にはデフォルト(債務不履行)宣言し、それがほかの国に広がっていった。
その対策のひとつとして宮沢構想が出た。一部金利の棚上げや債務の一部削減など、若干救済的な金融支援を民間銀行も行ってはどうかという案だ。同時に、IMFとか各国政府が少し長期の新規資金を融資する。
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週刊エコノミスト
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