人口減少時代の大都市はスマートに縮小できるか 森知也
過去50年で日本の人口は大都市に集中し、大都市内では逆に都心から郊外へ分散が進んだ。これから迎える人口減少社会では、東京でも人口減少や人口密度の低下が進む。
日本は今、世界に先駆けて急速な人口減少に直面している。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は、日本の人口が2020年時点の1億2600万人から、2120年には、将来推計人口の最も可能性が高いケースとする「中位推計」で5000万人、より悲観的な「低位推計」で3500万人まで減少すると予測する。中位推計で想定している合計特殊出生率は20年時点の1.36だが、23年時点で1.20まで低下しており、すでに低位推計の方が現実的かもしれない。この未曽有の人口減少の下、今後の都市がどのように変化し、それに伴って住まいのあり方はどう変わっていく必要があるのだろうか。
有識者でつくる「人口戦略会議」が今年4月、人口減少に伴って消滅の危機に直面しているとされる「消滅可能性自治体リスト」を公表して大きな注目を集めたが、筆者の研究チームで行う経済集積理論とデータに基づく予測では、大都市でも大幅な人口減少および都心の人口密度の低下が起こる。東京や大阪などの大都市も、過疎地域とは異なる大きな変化に対し、適応を迫られるはずだ。
経済現象の中には、未来が予測できるものとできないものがある。例えば、バブルの発生と崩壊は、地震の予測と似ていて、メカニズムを明らかにはできても、いつ起こるかまでは容易には予測できない。しかし人口集積として捉える都市の盛衰は、大筋で予測ができるまれな経済現象なのだ。
我々の研究では、「都市」を人口密度が1平方キロメートル当たり1000人以上、かつ人口が1万人以上の地理的に連続した領域として定義する。ただし1000人や1万人という具体的な数字は特に重要ではなく、大事なのは都市を人口集積として捉えることだ。この定義での都市は20年時点で全国に431あり、国土のわずか6%を占める一方、人口の80%が居住する。
大阪に続いて名古屋も
まず1970年から2020年の過去50年の都市の変化を振り返ってみよう。大都市はより大きく、小都市はより小さくなり、日本の人口は大都市に向かって大幅に集中した。図1は、地方を七つの区域に分け、各地域の最大「都市」の人口の推移を、各「都市」の20年時の人口を100とした場合の相対値で示す。20年までは大阪を除き、おおむねすべての地域で中心都市への集中が起こった。「東京一極集中」といわれるが、実は「一極集中」は、各地方でもその中心都市に向かって進んだのだ。
人口集中の大きな理由は、輸送・通信費用の減少により距離障壁が大幅に崩れたことだ。高速道路・新幹線網が整備され、インターネットが普及した時期と重なる。競争は広域化し、地元市場が小さい小都市は大都市との競争にさらされ淘汰(とうた)されやすくなる。しかし、淘汰されるのは小都市ばかりではない。日本で2番目に人口が大きい大阪は、新幹線のぞみ号の運行開始以来、衰退を続けている。東京に近づき過ぎたためであり、経済集積理論ではこの状況を、東京の「集積の陰」に含まれるという。
一方、個々の都市の内部では、輸送・通信費用の減少は、逆に立地の分散を促す効果を持つ。以前は週5日で通勤していたのが、今は週3日となり、残りの2日はリモート出勤に変わったならば、世帯は通勤時間を伸ばしてでも、より安く広い住宅を求めて郊外に移住する動機を持つだろう。企業も同じで、取引の一部がリモートになれば、都心立地の魅力は減る。
図2は、個々の都市の面積、および、都市内部の最大・平均人口密度の変化を示したものだ。3本の折れ線は各時点の全都市の平均値、周辺の帯は値のばらつきで、平均値周辺の95%の値の範囲を示す。この50年間で、都市内の最高および平均人口密度は単調に低下し、面積は拡大した。つまり都市内の人口分布は平坦(へいたん)化した。人口は、国全体では大都市に向かって集中した一方で、都市内部では逆に、郊外に向かって分散したのだ。
低層化で地域の再構築を
日本の人口が、社人研による中位推計に従って減少し、輸送・通信費用が過去50年と同様の傾向で今後も減少するとしよう。図1と2の2025〜2200年のグラフは、その状況下で、経済集積理論に基づく統計モデルを使って予測した、7都市の人口および都市内の人口密度と面積の推移だ。
大阪に加えて名古屋が急速に衰退していくことが予測されている。一つの理由は、名古屋もやはり東京に近づき過ぎたことだ。東京と福岡、札幌、広島、仙台という地方7区分の他の大都市は、周辺地域からの人口流入により、総人口の減少下でもしばらくは人口が増加する。しかし、それも2035年までで、これらの都市の人口もその後は急速に減少する。
都市の人口と地価は強く相関するため、図1の各都市の地価水準の変化も図1が示す人口の変化に近いものとなる。さらに、都市の内部で起こる人口分布の平坦化の下では、特に都心の地価がより大きく下落するだろう。図3は、2020年と2120年の東京の人口分布だ。前者は実現値、後者は社人研の中位推計の下での予測値で、濃く表示された部分が人口集積としての東京に当たる。人口と都心の人口密度は、いずれもおおよそ3割減少する。より現実的な予測かもしれない低位推計では、いずれも約半減する。
このような状況下、東京、大阪、福岡などの都心で増えるタワーマンションは早晩、負の遺産と化すだろう。ただし人口減少の効果のほとんどは負だが、光明もある。高層化ではなく低層化し、災害レジリエンス(回復力)や、人の交流を促す地域コミュニティーを再構築するきっかけとなりえる点だ。ある程度の低密度化は、自動運転や物流自動化とも親和性が高いだろう。急速な人口減少の下、今後さらに人口が集中する大都市が、平坦化する都市内の人口分布に適応し、スマートに縮小できるか否かが、日本の経済を維持していく上で鍵となるだろう。
(森知也〈もり・ともや〉京都大学経済研究所教授、経済産業研究所ファカルティフェロー)
週刊エコノミスト2024年7月16・23日合併号掲載
マンション管理&空き家 人口減少社会 東京も間もなく「衰退」予測 タワマンの厳しすぎる未来=森知也