国際・政治 東奔政走

岸田首相は総裁選不出馬も 追い込みをかける菅前首相 伊藤智永

 岸田文雄首相は9月の自民党総裁選に立候補できるか。政局の焦点はその去就に移った。6月21日、国会閉会時の記者会見で、岸田氏は総裁選出馬や内閣改造・自民党役員人事への態度を問われて、いずれも明言を避けながらも、物価高への経済対策を秋までに二段構えで打ち出す方針を明らかにしたことから、新聞各紙は「再選に意欲を示した」と報じた。

 すかさずこれにかみついたのは菅義偉前首相だ。2日後、『文芸春秋』電子版のオンライン番組で「(政治資金パーティー裏金事件で)岸田氏自身が責任を取っておらず、不信感を持つ国民は多い。総裁選で自民党が変わった、もう一回自民党に期待したいという雰囲気作りが大事だ。国民に刷新感を持ってもらえるか大きな節目になる」と再選反対ののろしを上げた。それまでも麻生派や茂木派の若手議員から岸田氏の責任を問う声が上がっていたが、前首相が公然と退陣を迫った衝撃は大きい。

 菅氏の退陣要求については党内に支持と反発がある。菅氏は裏金事件で設置された党政治刷新本部の最高顧問。岸田氏の改革が不徹底だと思うなら、国会が終わる前に主張すべきであった。閉会後に言い出したのは、「ポスト岸田」政局の主導権を握る思惑と疑われても仕方ない。党長老の伊吹文明元衆院議長が「岸田対反岸田で批判し合うと、ガバナンスのない政党だと思われる。総裁選の前哨戦のような批判合戦はやめた方がいい」と意見するのは、魂胆が見え透くからに違いない。

菅氏に「小石河」カード

 まだ3カ月も先の総裁選は、今のところ岸田氏が再選に向けて麻生太郎副総裁の支持をつなぎとめたいのに対し、茂木敏充幹事長が岸田氏不出馬の後継をうかがい、麻生氏が岸田氏続投か主流派間の継投か情勢を見極めている段階だ。党内過半数にそれが流れと認めさせられれば、麻生氏自身は引き続き主流派のドンで居続けられる算段である。菅発言の直後に会食した麻生氏と岸田氏が「今のタイミングでの発言としてはどうかと思う」と話したのは意味深だ。適切な時機の岸田退陣も想定しているようにうかがわれるからだ。

 しかし、だからこそ菅氏は何人もの「ポスト岸田」候補を用意して奪権の揺さぶりを掛ける。世論調査で人気上位常連の小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相の「小石河トリオ」が菅氏の手持ち札である。退陣要求をぶち上げた際も、問われるままに候補全員の人物評を披露した。石破氏は「期待できる方」、小泉氏は「改革意欲があり」、河野氏は「突破力がある」。さらに菅内閣の官房長官だった加藤勝信氏は「仕事がきちんとできる」。ついでに茂木氏も「党運営をしっかりやっている」と持ち上げた。岸田氏以外なら誰でもいいと言っているようなものだ。

 聞き逃せないのは、菅氏が岸田批判の理由の一つに「党全体で全ての派閥解消を実行すべきだ」と付け加えたことだ。麻生派だけが解散を拒んでいる現状では、麻生氏へ…

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