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イラン大統領選で大波乱 改革派候補が決選投票へ 斉藤貢

得票率でトップとなった改革派のペゼシュキアン氏(中央、新華社=共同)
得票率でトップとなった改革派のペゼシュキアン氏(中央、新華社=共同)

 ライシ大統領の事故死を受けて6月28日に行われたイランの大統領選挙は、改革派のペゼシュキアン元保健相と保守強硬派のジャリリ元最高安全保障委員会事務局長が得票で首位、次点となったが、当選に必要な過半数には及ばず、7月5日の決選投票に持ち込まれた。ただ、ペゼシュキアン氏は当初これほどの躍進するとは見込まれておらず、イスラム革命体制の堅持を追求する保守強硬派が思わぬ国民の抵抗に遭った形だ。

 イランは大統領、国会議長、司法権長(最高指導者が任命)の三権の上にイスラム教シーア派の高位の宗教指導者が君臨する神権政治体制といわれる。しかし、イスラム革命から40年以上経過して国民のイスラム革命離れが著しくなり、今ではイスラム革命を支持するのは国民の20%に過ぎないといわれる。

 このイスラム革命離れに対して、保守強硬派は2020年の国会議員選挙以後、強引に保守強硬派以外の候補者を立候補段階で排除している。今回の大統領選挙でも候補者は、比較的無名のペゼシュキアン氏以外は保守強硬派で固められ、保守強硬派の勝利は約束されたものと思われていたが、ペゼシュキアン氏が決選投票に生き残ったのは、保守強硬派にとって大誤算だったことは間違いない。

 過去、イランでは選挙の投票率が60〜80%と高かったが、保守強硬派以外の候補者が露骨に排除された結果、選択肢を奪われた国民は選挙をボイコットしている。投票率は今回の大統領選では過去最低の40%になってしまった。

後継者問題は白紙

 イラン指導部は市民的自由への制約を年々強め、経済面でも対米強硬姿勢の継続によって制裁が解除されないため、国民の生活は苦しさを増す。今回の選挙結果には、これまで以上のイスラム革命体制への国民の不満の高まりが表れている。保守強硬派は決選投票では威信を懸けてジャリリ氏を当選させようとするだろうが、選挙をボイコットしていた国民がペゼシュキアン氏を支持して、大統領に当選する可能性も否定できない。

 だが、ペゼシュキアン氏が大統領になっても、保守強硬派が徹底的に妨害するのは目に見えている。例えば、ペゼシュキアン氏は、対外融和を訴えているが、欧米との対立・緊張の原因である核開発計画では、保守強硬派は継続方針を譲歩することはないだろう。また、イスラエルや米国への対決姿勢も同様だ。

 なお、故ライシ氏はイスラム教シーア派の高位の聖職者でもあり、85歳の最高指導者ハメネイ師の後継者と目されていたが、その事故死によって後継者問題も白紙に戻ったことにも注意しなければならない。最高指導者になるには大統領職を経験する必要はないが、事実上の登竜門と見なされてきた。今回の候補者や過去の大統領はいずれも高位のシーア派聖職者ではなく、後継者候補とはなりえない。

(斉藤貢・元駐イラン大使)


週刊エコノミスト2024年7月16・23日合併号掲載

FOCUS イラン大統領選 過半数なく決選投票へ 改革派が首位の波乱=斉藤貢

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