教養・歴史 小川仁志の哲学でスッキリ問題解決

仕事、家事や育児の日々。その割には給料が見合っていません/216

イバン・イリイチ(1926〜2002年)。オーストリア出身の哲学者、文明批評家。現代産業社会批判で知られる。著書に『脱学校の社会』などがある。(イラスト:いご昭二)
イバン・イリイチ(1926〜2002年)。オーストリア出身の哲学者、文明批評家。現代産業社会批判で知られる。著書に『脱学校の社会』などがある。(イラスト:いご昭二)

Q 仕事、家事や育児の日々。その割には給料が見合っていません 朝から夕方まで会社で働き、家に帰っても忙しく家事や育児をこなす日々。その割には給料が見合っていないように感じるのです。特別な才能のない自分が悪いのでしょうか。(会社員・40代女性)

A 表裏一体の関係である賃労働とシャドウ・ワーク。その問題点を考えよう

 忙しい割には、それが収入に結び付いていないと感じる人は多いのではないでしょうか。会社で働いている時間だけなら8時間程度かもしれませんが、その後大抵の人が家事をしたり、育児をしたりしなければなりません。その部分は本当に無給でいいのかどうか?

 そんな疑問を投げかけたのが、オーストリア出身の哲学者イバン・イリイチです。彼はこの支払われることのない労役を「シャドウ・ワーク」と名付けました。これには家事だけでなく、試験勉強や通勤、押し付けられた消費のストレス、強制される仕事への準備、いわゆる「ファミリー・ライフ」と呼ばれる活動なども広く含まれるといいます。

 こうしたことすべてが、産業社会の求めるものであって、だとするならば本来は賃金が支払われるべきものだというわけです。さらに、より本質的な部分でシャドウ・ワークが問題なのは、生活の自立と自存を奪い取る点です。なぜなら、賃労働は自らの選択によって行うものであるのに対して、シャドウ・ワークの場合、人は「その中に置かれる」からです。つまり、時間、苦役、尊厳の喪失が仕方なく強要されるということです。

ホモ・エコノミクスへの道

 では、そもそもなぜシャドウ・ワークが生み出されることになったのか?

 イリイチによると、産業社会の進展によって、男性は…

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週刊エコノミスト

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