米連邦最高裁の“ちゃぶ台返し” 今年は気候変動対策に影響か 吉村亮太
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米連邦最高裁の会期末に当たる6月後半には、重要案件に対する判決が続々と下される。風流とは程遠いが、ワシントンDCの初夏の風物詩だ。
人工妊娠中絶を選ぶ権利を連邦レベルで担保してきた半世紀前の判例を覆し、州ごとの判断に任せるとした判決を2年前に出したのは、まだ記憶に新しい。今年も、トランプ氏が大統領選の結果を覆そうとしたとして起訴された事件に絡み、大統領在任中の公務には免責特権が適用されるとの判断を示したことが大きく取り上げられた。いずれの判決も保守派判事が多数派を構成する現在の最高裁のなせるわざといえるが、法学を志す者にとって必須のケーススタディーとなることは間違いない。
これらに比べると国民の認知度は低いが、行政法の運用の大前提とされてきた「シェブロン法理」が覆された6月28日の判決も画期的だった。9人の判事のうち、保守派の全6人の足並みがそろった。シェブロン法理の名称は、環境団体が米石油大手のシェブロン社を相手取って争った40年前の訴訟の判決により確立されたことに由来する。簡単にいうと、「法律の条文が曖昧ないしは明示的に記されていない場合、その解釈は司法府が行うのではなく管轄する行政府に任せる」という理論だ。
裁判官が必ずしも専門的な知識を持っているわけではないため、行政機関に任せておくべきだと法理の肯定派は主張する。米国の場合、議員立法制ということもあり完璧な条文は期待できず、官僚に不完全な部分を補ってもらうことに一定の合理性はある。党派対立により議会の立法能力が低下していることを考えればなおさらだ。
一方で、法律を作るのは国民の負託を受けた議会の責務であり、法律の解釈…
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週刊エコノミスト
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