経済・企業 みずほ銀行

インタビュー「金利のある世界で渋沢イズムを実践する」加藤勝彦・みずほ銀行頭取

 日米の金融政策や米大統領選など不確定要素が多い中、「金利のある世界」でどんなかじ取りをするか。ゆかりの深い渋沢栄一の新紙幣発行を機に、みずほ銀行の加藤勝彦頭取に聞いた。(聞き手=浜條元保/中西拓司・編集部)

── 「金利のある世界」が到来した。

■預金の収益性が高くなることは銀行にとってプラスだ。過度に金利が上がれば、貸出金利が増える。その部分でお客さまに負担がかかり業績の悪化はマイナスだが、米国のように急激な金利の上昇にはならないだろう。

 ただ、リテール(個人営業)の世界で、昔のように金利競争は考えていない。この30年間の「金利のない世界」で顧客サービスに努めてきたノウハウがある。みずほグループでは、銀行、信託、証券が一緒の目線でお客さまに運用商品やコンサルティング機能などのサービスを提供してきた。こうしたサービスを提供して、当行の利用頻度を高めてもらう。その結果として預金が滞留するモデルを回していく。

── チャネル戦略は?

■デジタル、リモート、店舗の三位一体でやっていく。デジタルはUI(顧客との接点)、UX(商品やサービスを通じて得られる満足度)を高めていく。インターネットバンキングの「みずほダイレクト」は、お客さまアンケートで高い評価を得ている。おサイフアプリの「みずほWallet」はバージョンアップして、支払いや送金アプリの「J-Coin Pay」を標準装備。さらに、当行を介して利便性の高いサービスを提供している。たとえば、楽天証券やPayPay証券、LINEクレジットといったUIやUXで優れた商品を持つビジネスパートナーと組んで、総合的なサービスのレベル、質を高めている。

 リモートは、7月から生成AI(人工知能)を活用した「次世代コンタクトセンター(コールセンター)」をスタートさせた。お客さまにきちんと、つながることが大事だ。通常、金融機関で10%を切るのが大変とされる呼損率(つながらない割合)が、当行は8%台。問い合わせ窓口格付け・Webサポート格付け機関のHDI-Japanから3年連続、最高評価の「三つ星」を獲得した。強みをさらに進化させていくのが次世代コンタクトセンターだ。

無駄ではない「金利のない30年」

 店舗は運用や借り入れなど相談をする場にしていく。従来よりももっとオープンなスペースにする。立地もショッピングモールや駅前に変えることも検討中だ。コンセプトは事務手続きまでできる相談中心の店舗だ。これを「みずほライフデザインプラザ(個人のお客さま専用店舗)」と呼び、首都圏中心に129店で今年度から始めていた。数年内に全店に広げていく。

── みずほ銀行とゆかりの深い渋沢栄一の新1万円札が7月3日から発行が始まった。

■渋沢は1873(明治6)年に日本発の近代的な銀行である第一国立銀行(後の第一勧業銀行、現みずほ銀行)を作った。当時は江戸から明治に移り経済を発展させなければいけない時代だ。経済がしっかりしていないと列強から独立を脅かされる状況だった。

 渋沢は銀行を「大きな川」に例えている。川のような役割を銀行が果たして、日本を支える強い経済を作るというのが渋沢の発想だったと思う。そうして清水建設や東京海上保険(現東京海上ホールディングス)、渋沢倉庫などさまざまな企業が誕生した。渋沢は日本の社会課題に対して応える形で産業を興し、それを銀行が支えた。

 今、社会は非常に不明瞭な外部環境にある。少子化問題やサステナブルなカーボンニュートラルの社会の実現、そうした社会課題の解決に向けて各企業が取り組んでいる。明治初期と、ある意味似ている。そこをしっかり支えていくという渋沢のアイデンティティーを当行は引き継いでいる。みずほグループの「サステナブルファイナンス(持続可能な社会実現のための金融)」はグローバルでナンバーワンのアセットを持ち、2030年まで100兆円にする計画だ。また、渋沢がいろいろな産業を立ち上げたのは今でいえば、スタートアップ(新興企業)支援だろう。当行のスタートアップ貸し出しは24年3月末時点で、2年前に比べ残高を1.5倍に増やした。

── 大半の銀行員は金利のある世界を知らない。

■預金金利を引き上げる手続きの経験があるのは部長クラス以上。そのため部長が勉強会を実施している。ただ、この30年も決して無駄だったとは思っていない。金利がない世界でビジネスを展開することは厳しかった。行員のスキルは磨かれたと思う。そこを変えることなく、貸し出しに対しては対価として適正なフィーをいただく、正しく稼ぐ渋沢イズムを実践する。


 ■人物略歴

かとう・まさひこ

 1965年生まれ。88年慶応義塾大学商学部卒業、同年4月に富士銀行(現みずほ銀行)入行。みずほ銀行ハノイ支店長、ソウル支店長などを経て、2021年4月から取締役副頭取、22年4月から現職。


週刊エコノミスト2024年7月30日号掲載

インタビュー 加藤勝彦 みずほ銀行頭取 「金利のある世界で渋沢イズムを実践する」

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