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教養・歴史 書評

戦争の記憶の継承と学ぶことに終わりはない 井上寿一

 日本の夏は戦争の記憶をよみがえらせる季節でもある。年を追って戦争の直接的な体験者が減る。戦争の記憶の風化の危機が叫ばれて久しい。どうすべきか。考えるまでもなく、すでにある膨大な手記や証言録などを読めばよい。たとえばNHK「戦争証言」プロジェクト編『証言記録 市民たちの戦争』全3巻(大月書店、各2860円)。約10年前の刊行ではあっても、史料的な価値が損なわれることはない。本書は銃後の市民、あるいは前線も銃後も区別がなくなった戦争における市民の証言録である。

 第1巻には東京の武蔵小山商店街の満州東京開拓団の人びとの証言も収録されている。戦時下の配給制度によって、商品が売れず廃業に追い込まれ、満州をめざすようになる人もいた。満州での生活は過酷を極める。東京の商売人が農業を営むのは無理だった。若い人は兵隊にとられた。そこへソ連軍が侵攻してくる。8月15日を迎えても逃避行の受難が続いた。

 第2巻に収められている証言の一つは、墜落したB29の搭乗員の遺体に暴行を加える市民の姿を伝えている。米兵を痛めつけたことは「お手柄」として新聞に報じられ、「英雄」扱いされた。ところが戦後は「人殺し」として占領当局から尋問されることになった。

 第3巻ではテニアン島における一般市民の自決の証言を知ることができる。この証言ではそれまで「悪くて」話せなかった弟の自決を証言する人もいる。誰も「死にたくない」などと…

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