教養・歴史 アートな時間

日本の花火師一族の物語 世界の不条理の根源問う 濱田元子

岡本隆史撮影
岡本隆史撮影

舞台 NODA・MAP「正三角関係」

 前作の「兎、波を走る」もそうだったが、観客を予測だにしないところに連れていくのが野田秀樹の世界だ。油断禁物。今作もまさにそうである。

 テーマは見てのお楽しみだが、世界がいま見るべき作品ということは言える。劇作家・演出家、俳優でもある野田のメッセージが、壮大な仕掛けの中でストレートに伝わってくる。

 野田は絶大な人気を誇った劇団「夢の遊眠社」を1992年に解散し、ロンドンに留学。帰国後立ち上げたのがNODA・MAPだ。アメリカ同時多発テロ後に英国で生まれた「THE BEE」(筒井康隆『毟(むし)りあい』原作、コリン・ティーバン共同脚本)は報復の連鎖を、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』もベースにある「Q:A Night At The Kabuki」は分断社会を突くなど、常に時代と切り結ぶ作品を世に問うてきた。

 今作は入り口がロシアの文豪、ドストエフスキーの長編小説『カラマーゾフの兄弟』だ。舞台をロシアから日本のとある時代、場所に移し、カラマーゾフならぬ花火師一家の唐松族(からまつぞく)の父兵頭(ひょうどう)(竹中直人)、花火師の長男富太郎(とみたろう)(松本潤)、物理学者の次男威蕃(いわん)(永山瑛太)、聖職者の三男在良(ありよし)(長澤まさみ)を軸に展開していく。

 父が殺され、容疑が父と確執のあった富太郎にかかる。舞台は富太郎の「父殺し」を裁く法廷が中心となるが、証言の回想場面も絡まりながら、大きな歴史の渦の中にのみ込まれていく。

 言葉遊びやメタファーが観客を幻惑し、ボールや粘着テープを使っての身体性が物語を飛躍させていく。リングに見立…

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週刊エコノミスト

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