教養・歴史 アートな時間

「食わず嫌い」から「興味津々」へ 日本画と印象派の画家2人の対話に耳を傾けて 石川健次

平松礼二《モネの池・蝶々》二曲屏風 2023年
平松礼二《モネの池・蝶々》二曲屏風 2023年

美術 旅する日本画 ─洋上の美術館・飛鳥Ⅲから─

 しだれ柳越しに睡蓮(すいれん)が浮かぶ池が広がる。図版の作品だ。屏風(びょうぶ)の金地を水面に、たくさんの睡蓮が踊るように描かれている。目を凝らすと、画面の真ん中やや下に2頭の蝶(ちょう)が飛んでいる。弾むように軽やかに、羽を精いっぱいに広げて舞い飛ぶ姿は楽し気だ。

 柳越しに広がる池とそこに浮かぶ睡蓮という構図に、19世紀フランス印象派の巨匠、クロード・モネが描いた睡蓮の連作を思い浮かべる人も少なくないだろう。そう、現代日本画を代表するひとりで1941年生まれの平松礼二が、モネとの時を隔てた応答のなかで描いたのが、この作品だ。

 厳格だった父の「画家などは河原乞食(こじき)だ。まともな職につけ」という口癖を年中耳にしつつ、持ち前の反骨心や行動力、何より絵画への憧憬(しょうけい)から「日本美の源流たる日本画を16歳で選択」した平松が、「食わず嫌いで避けて」いたフランス印象派に衝撃を受け、一転して「興味津々なジャンル」に変化したのは、50歳を過ぎて初めてパリを訪れたときだ。カッコ内は画家自身の言葉を引用した。

 何気なく訪れたオランジュリー美術館でモネの大作《睡蓮》を見て、そこに混在する西洋と日本に目を奪われた。同時に、モネの視線を通して逆に装飾性や意匠性の素晴らしさなど日本美術の原点、魅力に改めて肉薄し、創造のヒントを得られないかと考えた。

 以来、モネのアトリエなど印象派の聖地を訪ね、印象派の視線を追体験しつつ新たな美の探求に邁進(まいしん)する。

 さて本格的なクルーズ船がまだ日本になかった時代に洋上文化の創造を目指して造られた「飛鳥…

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週刊エコノミスト

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