原発事故が破壊した暮らし 誇りある農業の回復なるか 寺脇研
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映画 心平、
心平という名の男がいる。30代後半くらいだろうか。何やら挙動が変だ。見ていくうちに、軽度の知的障害らしいことがわかってくる。対人関係が苦手のようで、ほとんど単独行動だし、せっかく就職口があっても面接に行く段で逃げ出してしまう。一方、自分が興味を持つものには極めて強い執着を示す。これは、いわゆる自閉症スペクトラムなのだろう。
冒頭のシーン、心平のいる部屋はずいぶんと散らかっている。こうした整理のつかない状態も障害と関係があるのだろうか、と思っていると、テレビから「震災から3年……」のナレーションとともに、原発事故で無人となった地域の映像が流れる。そうか、あの時期の話か。部屋が荒れているのもそのせいで、ここは福島原発のあたりなのか。
そこから、心平をめぐる話の筋が少しずつ明らかになってくる。近くの小さなプラネタリウム施設で働く妹、立ち入り禁止の警戒区域の警備員をしている父親という家族構成のようだ。そして、彼がなけなしの金をはたいて事あるごとに買い込む美しいデザインの手作り日傘が、殺伐とした周囲の風景に彩りを与える。どうやら店主の女性に対し一方的に思いを寄せているようだ──と、状況を推理していく楽しみを味わえる映画なのである。
そのうち、家族の目が届かないところでの心平の意外な行状が暴かれたのをきっかけに、父や妹と感情をぶつけ合う展開になってくる。不在の母親は心平たちが幼い頃に男と出奔したというし、父親は酒に逃避し、唯一妹だけがまともに皆の行く末を案じているのだ。さて、彼らの暮らしは立て直すことができるだろうか。話はスリリングに進んでいく。
気をもむうち、彼らの生活を壊…
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週刊エコノミスト
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