経済停滞と格差拡大 G20が「超富裕層への課税強化」を採択 桐山友一/荒木涼子・編集部
ブラジル・リオデジャネイロで7月25〜26日に開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議。巨大IT企業を念頭に置いたデジタル課税の実現促進だけでなく、超富裕層の個人に対する課税強化も盛り込んだ閣僚宣言を初めて採択した。新型コロナウイルス禍が明けた後の世界経済が停滞する中で、格差や不平等の拡大に危機感を共有した結果だ。
日本や米国といった先進国に、中国やロシア、インドなど主要新興国も加わった枠組みのG20。世界GDP(国内総生産)の8割以上を占め、2008年のリーマン・ショック後には協調した経済政策で大きな存在感を放ったが、ロシアのウクライナ侵攻(22年2月)や激化する米中対立もあり、このところは目立った成果を残せていなかった。それでも今回、3会合ぶりに共同声明も採択するまでに至り、再び結束しつつある。
各国の問題意識の根底には、停滞する世界経済への危機感がある。国際通貨基金(IMF)が今回のG20会合に際してまとめたリポートによれば、世界経済は00〜19年、平均3.8%成長していたが、IMFの今年7月時点の世界経済見通しでも今年は3.2%にとどまり、向こう5年間の予測でも年平均3.1%にすぎない。今後もしばらく停滞が続く世界が待っている。
実効性を左右する米国
さらに、IMFのリポートでは、少なくとも4年間、経済の停滞が長く続けば、停滞が始まった3年後には不平等度が17%も拡大するとの推計もまとめた。賃金や雇用の減少によって労働者への分配が減るだけでなく、健康状態や教育への悪影響を通じて成長を損ない、所得と富の不平等がさらに広がる悪循環を指摘。極端な場合は、社会不安や政治不安を引き起こす可能性にも言及した。
仏経済学者ピケティ氏らが運営する世界不平等研究所の「世界不平等リポート」(22年版)によれば、世界の上位1%の超富裕層が富の38%を占め、富裕層への富の集中は年々進む。巨大IT企業は物理的な拠点がなくともインターネットを介して世界各地で莫大(ばくだい)な収益を上げ、世界の時価総額上位50社ではマイクロソフトやアップルなど米企業が6割超にものぼる。
米国の政治的な分断や欧州での極右の伸長など、先進国内部でも社会不安や政治不安の芽はすでに出てきている。一橋大学経済研究所の宮本弘暁教授は「経済のグローバル化や技術進歩で国全体にメリットがあっても、デメリットを受ける人たちが出てくる。特に近年は生成AI(人工知能)の技術革新が目覚ましいが、そうした人たちにどれだけうまく所得再分配できるかが重要だ」と語る。
G20はその解をデジタル課税や富裕層への課税強化に求めた。しかし、その実効性は世界最大の経済大国である米国が左右する。11月には米大統領選が控えるが、その結果次第では一段と格差や不平等が拡大し、世界はさらに混迷しかねない。世界は今、大きな岐路に差し掛かっている。
(桐山友一〈きりやま・ゆういち〉/荒木涼子〈あらき・すずこ〉編集部)
週刊エコノミスト2024年8月13・20日合併号掲載
下期総予測 G20で富裕層へ課税強化 停滞下の格差に危機感=桐山友一/荒木涼子