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米大統領選 直前の混沌 渡辺亮司

共和党候補のトランプ前大統領(左)、民主党の候補指名が確実なハリス副大統領(いずれもBloomberg)
共和党候補のトランプ前大統領(左)、民主党の候補指名が確実なハリス副大統領(いずれもBloomberg)

 11月の米大統領選に向け民主党の候補指名にハリス副大統領が確実視されるが、民主党が団結を維持できるかどうかも行方を左右する。

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 バイデン米大統領が7月21日、撤退を表明したことで、11月に控える大統領選は急展開を迎えた。ペロシ元下院議長、オバマ元大統領、そして上下両院の民主党指導部など党内重鎮が水面下で主導した「バイデン降ろし」の動きが決定打となった。ペンシルベニア州で7月13日に起きた選挙集会中の銃撃事件を受け、共和党候補のトランプ前大統領が一時、圧倒的優位とみられたが、情勢は一気に混沌(こんとん)としてきた。

 バイデン大統領はハリス副大統領を候補として支持。民主党予備選の代議員の大半もバイデン派で、ハリス氏の指名獲得は確実視されている。バイデン氏は81歳で、有権者が民主党候補の選定で最も懸念していた年齢問題が、59歳のハリス氏の指名で解消される。高齢問題の矛先は、候補者で最高齢78歳となる共和党のトランプ前大統領に向けられるかもしれない。

 筆者の周りの民主党支持者は、高齢不安で敗北が予想された中での撤退決断で、安堵(あんど)感とともに新候補への期待感に満ちあふれる声が支配的だ。候補者が一気に若返り、民主党支持者は息を吹き返した。他方、ハリス氏の思想を知らなかった人が出てきたり、あるいは大統領としての資質を懸念する声も聞こえたりしてきた。

カギはラストベルト3州

 特に、16年大統領選で「ガラスの天井」を打ち破ることは容易でなかったことは記憶に新しい。16年の選挙前、米国初の女性大統領誕生がほぼ確実視されていた民主党候補のヒラリー・クリントン元国務長官は、「ブルーウオール」と呼ばれ民主党の牙城であったラストベルト3州(ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア)でトランプ氏に敗れて落選した。

 バイデン氏は労働者階級が住むペンシルベニア州スクラントン出身であることを強調し、「スクラントン・ジョー」と自ら称して、20年大統領選でラストベルト3州を奪還した。だが、ハリス氏がラストベルトの白人労働者階級の支持を同様に得られるかは不透明だ。ハリス氏の各種問題も今後、明るみに出るだろう。過去の部下に対する扱いや外交政策の経験不足も、共和党から「口撃」されることを民主党支持者は懸念する。

「民主党は恋に落ちたがり、共和党はただ従うだけ」。大統領選における各政党支持者の特徴を、03年に民主党ビル・クリントン元大統領はこう描写した。民主党は各個人が好む政治家を追い求め、党として団結しない一方、共和党は特定候補の下に団結する傾向を揶揄(やゆ)したものだ。8月19日からの民主党全国大会から選挙まで2カ月半しかない。仮にハリス氏への懸念の高まりから、再び党内が分裂すれば、トランプ氏勝利は確実だ。

 大統領選に向け、国民が最重視するインフレ問題や国境問題では、民主党より共和党の政策に国民はより信頼を置く。しかし、大統領選の最大の焦点が民主党政権下の政策ではなく、共和党・トランプ氏の問題となればハリス氏にも勝ち目がある。また、ハリス氏が政権内で中心的役割を担ってきた人工妊娠中絶問題に注目が高まれば、若年層や女性の投票を促せ、民主党には追い風となる。足元、民主党はハリス支持に一本化した。反トランプ感情も後押しし、選挙まで団結を維持できれば、劣勢から挽回できるかもしれない。

(渡辺亮司〈わたなべ・りょうじ〉米州住友商事ワシントン事務所調査部長)


週刊エコノミスト2024年8月13・20日合併号掲載

下期総予測 米大統領選最新情勢 バイデン氏撤退で民主が安堵 トランプ氏優位から混沌へ=渡辺亮司

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