東京メトロが24年度中に上場方針ながら日程不明 業績好調で優良株の期待 小林拓矢
2024年度中に上場する方針の東京メトロだが、いまだ日程が出ておらず、見通しは不透明だ。しかし都心の事業者である強みを生かして業績は好調。上場すれば人気の優良株になると期待される。
コロナ禍での利用者減から、鉄道会社は立ち直りつつある。人々が普通に通勤するようになり、海外からはインバウンド(訪日客)も殺到。そんな中で都心部の鉄道は混雑が常態化している。
都心部の鉄道で中心的な役割を果たしているのが、東京メトロだ。2024年3月期で、9路線、営業距離195キロメートル、年間輸送人員23億人以上、旅客運輸収入3240億円の規模を誇り、グループ全体で1万1390人が働いている。
事業環境に優位性
東京メトロは21年3月期にコロナ禍の影響でグループ全体の営業収益が2957億2900万円にまで落ち込んだが、旅客利用者などが大きく回復し、直近の24年3月期には3892億6700万円にまで戻った。20年3月期の4331億4700万円には及ばないものの、かなりの回復を見せた。
東京メトロの事業環境の特徴として、多くの人が集まる都心部の鉄道網を担っているということもあり、関連する不動産事業や広告事業も収益力がある都心部で提供していることが強みとなっている。都心部一等地で、集約的に事業を行えるのが東京メトロの強みであり、東京一極集中の傾向がますます強まる中で世界都市・東京の存在感が高まることを背景に、優良企業として存在感を示している。
今後は、南北線の品川延伸や有楽町線の住吉延伸というビッグプロジェクトが実施されることもあり、交通事業者としての東京メトロは存在感を高めることが予想される。鉄道事業も関連事業も、「地の利」を十分に生かせる優良企業が、東京メトロである。
そんな東京メトロは、上場を目指している。東京メトロは、もともとは帝都高速度交通営団という特殊法人だった。南北線や半蔵門線が完成した時点をめどに特殊会社化することになり、04年4月に東京地下鉄(東京メトロ)が誕生。特殊法人の整理合理化を目指す方針の中で、東京メトロは完全民営化へと向かう流れが続いている。
現在の東京メトロは国が53.4%、東京都が46.6%の株式を保有している。それぞれの持ち株の半分を、上場の際に売却する。国が売却した利益は、東日本大震災の復興財源に充てる。
国は特殊法人の整理方針や、復興財源確保などの方針を持っているため、早期の売却に積極的だ。一方で都は、都内の交通に対する影響力を確保しておきたいという事情から、これまで東京メトロ株上場に対しては積極的ではなかった。国土交通省の有識者委員会は21年7月に答申を出し、現在の上場方針が決まった。
だが具体的な上場の日程はいまなお出てきていない。24年度内に上場という方針を示しており、夏以降と予測する報道もあったものの、具体的な日時は発表されていない。早くても今秋の後半、場合によっては24「年度」ということで25年の1月から3月ということも十分に予測できる。
長期保有の株に
東京メトロが上場しても、現在の株主構成から考えると東京メトロにお金が入ってくるわけではない。ただ上場後に市場から資金を調達する可能性は想定できる。それを利用してメトロが事業の強化に乗り出すと予想する。
鉄道株、特に私鉄株は配当金と株主優待が魅力で長期間保有している個人株主が多い。存続の確実性が高く、経営状態も安定したインフラ企業であり、都心部の鉄道はよく利用する人もかなりいるので個人投資家にもなじみの深い企業である。企業の置かれた状況から考えると一定の経営成績を常に出せる状態となっており、人気の株式となりそうだ。
当然、東京メトロ株を購入する人は長期保有を目的に購入する。株主優待は、所有株数にもよるが全線無料の使い切り切符や1年間東京メトロに乗車できるパス、また東京メトログッズなどが想定される。鉄道ファン向けには株主限定の車両基地公開なども期待したい。東京メトロのファンは多く、その人たちも長期保有株主の中に多く含まれるだろう。
安定性に優れた鉄道会社の上場は大きな注目を集めると予想される。
(小林拓矢〈こばやし・たくや〉フリーライター)
週刊エコノミスト2024年8月27日・9月3日合併号掲載
鉄道新時代 東京メトロ上場への道 24年度中の方針も日程不明 好調な業績で優良株の期待=小林拓矢