『西遊記』のムック本登場 数奇な歴史と尽きぬ魅力 加藤徹
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中国史のスケール感は、ムック本と相性がよい。大判なので、広大な風景の写真は迫力がある。地図も大きくて見やすい。図版を軸として、渾沌(こんとん)とした膨大な事象が、すっきりまとめられている。『時空旅人別冊 大人が読みたい西遊記』(三栄、1300円)は、ムック本の特長を満喫できる歴史書だ。
7世紀、唐の玄奘(げんじょう)は命がけでインドに渡り仏法を学んだ。彼は帰国後、旅で得た濃密な知見を弟子に口述筆記させた。これが『大唐西域記』である。後世、この史実をもとに、玄奘(三蔵法師)が孫悟空(そんごくう)や猪八戒(ちょはっかい)、沙悟浄(さごじょう)と天竺(てんじく)を目指す『西遊記』の物語が創られた。
上原究一・東大准教授は『西遊記』の受容史をわかりやすい筆致で解説する。玄奘の没後まもなく伝説化がはじまり、13世紀から物語や芝居が続々と仕組まれた。16世紀末、明の時代に「百回本」(全100回で構成される版本)の古典小説『西遊記』が成立した。これに関して日本の存在感は印象的だ。現存する明代の『西遊記』刊本は10種18点。中国には1点しか残っていないが、日本には8種15点も現存する。徳川家康に仕えた僧侶・天海も『西遊記』の原書のコレクターだった。日本での変容も興味深い。日本では沙悟浄はカッパとなり、三蔵法師は1978年のドラマで夏目雅子が演じてから女優の役柄になった。鳥山明氏が漫画『ドラゴンボ…
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週刊エコノミスト
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