国際・政治 東奔政走

党内抗争激化の自民党総裁選 問われる「政治とカネ」への対処 及川正也

後継は「改革を後戻りさせない人」に、と不出馬表明会見で主張した岸田文雄首相だったが……
後継は「改革を後戻りさせない人」に、と不出馬表明会見で主張した岸田文雄首相だったが……

 岸田文雄首相(自民党総裁)の突然の不出馬表明で構図が一変した自民党総裁選は、ベテランから若手まで多くの候補者が名乗りを上げる混戦模様だ。投開票日の9月27日には、1回目で過半数を獲得する候補はなく、上位2候補による決選に持ち込まれる、との観測が早くも飛び交っている。

 まずは岸田首相が不出馬を表明した8月14日に時を戻してみよう。今の議会システムでは最大与党の自民党総裁が首相に就任する。このため、総裁辞任は内閣総辞職を意味する。

崩れた「三頭政治」

 再選断念を決断した理由はいくつかあろう。首相は不出馬表明の記者会見で「政治とカネの問題が発生してからトップの責任のあり方を思い巡らしてきた」と述べた。国民の支持を失った責任を背負うかのような説明だったが、実のところは勝算がつかなかったからだろう。自ら解消をうたった派閥の力学も利かなくなっている。

 関係者によれば、首相の後ろ盾となっていた麻生太郎副総裁も「決選投票になると見通しがつかない」と伝え、これがダメ押しになったという見方は強い。

 麻生氏にとっては茂木敏充幹事長が出馬に動いたのが誤算だった。両氏が首相を支える「三頭政治」が崩れたうえに、安倍派などが「反岸田」で動けば敗戦は濃厚になる。

 現職総裁の出馬断念は野党総裁時代も含めて過去に5人いるが、いずれも外堀を固められ、勝算が立たずに立候補を見送らざるを得なかった。

 だが、よほど無念だったようだ。会見では「政治とカネ」問題への取り組みを「政治家の意地」と表現し、「改革を後戻りさせない人」を後継に、と主張した。

 これは、意中の人物がいる、という意味ではなく、「政治とカネ」問題で横やりを入れた守旧派も道連れにしようという執念が込められているようにも聞こえた。

 だが、そう簡単にはいくまい。首相の政治改革路線に立ちはだかったのは、他でもない麻生氏だ。一方、「岸田降ろし」の先陣を切ったのは、菅義偉前首相だった。

 道連れにしたいのは、首相周辺が「守旧派的存在」と呼ぶ長老たちだろうが、現実には、麻生、菅両氏の「キングメーカー争い」の様相を呈している。

 首相は、「新総裁は今度こそ、オール自民党でドリームチームを」とも述べた。主流、非主流を分かつ派閥の力学から逃れられなかったことへの悔恨の情がにじむ。

11人が出馬に意欲

 だが、候補乱立で党内抗争は激化し、これまで以上に「勝ち組」と「負け組」の溝は深まるに違いない。首相の「遺言」に耳を傾ける人などだれもいない。

 ただし、今回の総裁選は、キングメーカーたちの予想を上回る混戦になっている。出馬の意欲を示す議員は11人に達し、過去に例のないほどの多さだ。河野太郎デジタル相(61)▽小林鷹之前経済安保担当相(49)▽小泉進次郎元環境相(43)▽石破茂元幹事長(67)らが有力な候補と目されている。他にも、茂木氏(68)▽加藤勝信元官房長官(68)…

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週刊エコノミスト

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