政治とカネに及び腰の総裁選 実態は衆院選の「勝てる顔」探し 伊藤智永
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刷新感を競うはずの自民党総裁選が今一つ盛り上がっていない。岸田文雄首相の総裁選不出馬表明から告示まで約1カ月。10人以上が立候補に意欲を示しながら、正式表明が五月雨式にずれ込んで中だるみした。台風の影響もあったが、最大の関心である派閥パーティー裏金問題で、各候補予定者たちに大した方針も覚悟もないことが次々に露見し、世論が「またか」としらけているためだ。岸田氏は不出馬会見で「自民党が変わることを示す。改革を後戻りさせない」と述べたが、これまでのところ、それぞれの及び腰を互いに様子見しているありさまだ。
検討、覚悟なく「炎上」
いの一番に名乗りを上げた小林鷹之前経済安全保障相が、肩すかしの始まりだった。政治資金について言ったのは「政策活動費と旧文書交通費の透明化」くらい。裏金の使い道について「もう処分はしました。自民党は検察と違って捜査権限がありません」と岸田氏と同じ受け答えに終始した。
小林氏支持を表明した当選5回以下の若手議員24人のうち半数以上は、裏金が横行していた安倍派や二階派所属。小林氏は役職停止の解除も主張した。何のことはない、「政治資金収支報告書不記載は派閥の指示。我々は被害者だ」と不満な「裏金議員」たちが、49歳で初顔の小林氏を担ぎ、世代交代を演出して不祥事に幕を引こうという魂胆が透けた。
次に正式表明した石破茂元幹事長は当初「裏金事件に厳しく臨む。公認にふさわしい候補者か、徹底的に議論すべきだ」と踏み込んだが、翌日には「新体制で決めること。なっていない者が予断を持って言うべきではない」と引っ込めた。過去4回の総裁選では議員票の広がりが弱く、党内の反発に修正を余儀なくされた。
続いて立候補表明した河野太郎デジタル相は、とっぴな提案を持ち出した。「不記載と同じ金額を返還してもらってけじめとし、前に進みたい」。派閥の政治資金団体解散を届け出る際、国庫に入れるとも言ったが、党内外から「意味不明」「過去にさかのぼるのは困難」「けじめにもならない」などと批判が起きた。その後、麻生派の裏金疑惑が露見し、派閥頼みの河野氏は苦しい立場に陥っている。
3人とも十分な検討や真剣な覚悟のないまま主張し、次々に「炎上」した。そこへ、追い打ちを掛けるように8月29日、東京地検特捜部が堀井学元衆院議員を、秘書を通じて選挙区内の有権者に香典や枕花を違法に繰り返し渡していた公職選挙法違反(選挙区内での寄付)の罪で略式起訴した。
堀井氏は先に、安倍派パーティー収入のキックバック(3年間で1714万円)分不記載でも、裁判所から罰金100万円、公民権停止3年の略式命令を受けている。キックバックされた裏金は事務所で管理され、香典はそこから出ていた。秘書から違法だと指摘されても、堀井氏は「15年もやっているから大丈夫。長年の自民党の功労者は問題ない。ビビらないでください」などと指示を続け…
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週刊エコノミスト
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