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セブンに外資が買収提案したことで明確になったイオンとの違い 大島和隆

アリマンタシォン・クシュタール社はコンビニ「サークルK」を運営する(カナダ・トロントで、Bloomberg)
アリマンタシォン・クシュタール社はコンビニ「サークルK」を運営する(カナダ・トロントで、Bloomberg)

 セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けたという報道を8月19日に聞き、日本経済の現状に改めて強い危機感を持った。最近の物価高を受け、消費者の生活防衛策が一層進んでいる。今回の買収劇は、日本経済、すなわち個人消費の衰退と密接に結びついている。

 セブン&アイは、かつては日本の小売業界のトップに君臨していたブルーチップ(長期的な成長性と優れた財務・経営力を備えた優良銘柄)中のブルーチップだ。老舗のスーパー・イトーヨーカ堂と、日本のコンビニ文化を構築したセブン-イレブンという2枚看板で日本の小売業界をけん引してきた。しかし06年の西武・そごう買収以降、逆風が吹き始める。結果的に百貨店のビジネスモデルを再構築できず、昨年売却した。

 これには日本の消費構造の変化が深く関与している。つまり、デフレ志向の消費が定着したことと、日本の人口減少が消費市場全体を縮小させているからだ。デパートが時代遅れになったというより、日本の消費余力そのものが弱まったことが原因だ。ポジティブに見れば、消費者の嗜好(しこう)がよりスマートになり、モノの価値の良しあしを見極める目を持ったためと言えそうだが、実際は消費余力が弱まったに過ぎない。

 ただ、同じ小売業でもイオンとセブン&アイとで勝ち組、負け組の色合いが鮮明になっている。例えば、セブン&アイのPER(株価収益率)は18.05倍、PBR(株価純資産倍率)は1.43倍だった一方、イオンはPER70.22倍、PBR3.06倍だ(8月26日現在)。イオンはセブン&アイに比べ、2~3倍割高な株価で取引されている。

イオンは3割

 なぜこうした差がついたのか。その原因の一つは「株主優待」にあるとみている。イオンの株主優待は保有株式数によるものの、日常的に利用する消費者にとっては実質3~7%の値引きを毎日受けるのと同じ効用がある。

 一方、セブン&アイの株主優待は見劣りする。これならNISAを始めて最初に買う銘柄の候補に、イオン株は間違いなく筆頭に上がる。株主構成でも、個人株主の割合はイオンが約3割なのに対し、セブン&アイは1割弱だ。「消費者の支持」が買収を防ぐ盾になっている側面もある。

 日本の代表的なブランドの銘柄が割安なまま放置されているのはセブン&アイだけではない。買収劇の行方は当局の独占禁止法上の判断にも左右されるが、海外勢の「日本買い」が今後進むかどうかの試金石になる可能性もある。第2、第3のセブン&アイを出さないためにも、日本企業のブランド価値が再評価される機運が高まることを願う。

(大島和隆・ファンドガレージ主宰)


週刊エコノミスト2024年9月10日号掲載

FOCUS セブン買収提案 個人株主の比率低く 「株主優待」で明暗=大島和隆

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