資源・エネルギー FOCUS
敦賀原発2号機「不合格」とした規制委判断の意義を考える 小林祐喜
日本原子力発電の敦賀原発2号機(福井県敦賀市)について、原子力規制委員会は8月28日、原子炉直下に活断層のおそれがある地層が存在し、安全規制基準に適合していないとする審査書案を了承した。2012年に規制委が発足してから、審査「不合格」は初めてである。この審査は、福島第1原発事故前に事業者の言いなりと評された規制行政が事故後にどう変わったかという観点からも関心を集め、表のような経過をたどった。
規制委の有識者会合は13年、2号機下の地層について、活断層と認定した。一方、原電は海外機関に依頼した調査などからそれを否定した。異なる科学評価を規制委がどう判断するのか注目されたが、20年に原電提出の文書に、地質データを80カ所改ざんした跡が発見され、規制委は審査を中断した。その後も同様の問題で審査中断と再開を繰り返した。
「見せしめ」の色濃く
結果として、規制行政が福島第1原発事故前からどう変わったかよりも、「見せしめ」としての「不合格」の色彩が濃くなってしまった。不都合なことは隠そうとする電力事業者の変わらない姿勢を原電が体現したように見えることや、原発差し止めの住民訴訟が全国で相次いでいることで、原子力規制庁の職員から「安全規制の厳しさを示し、規制機関としての信頼を維持するため、敦賀を不合格にしなければ示しがつかない」との声が聞かれた。
一方で、今回の審査は「科学の不確実性」にどう向き合うか、という別の課題も投げかけている。地層評価は地質の専門家でも見解が分かれる「科学の不確実性」の一例である。規制機関単独での判断は難しく、異分野の専門家と対話しつつ、独立性を保って総合判断しなければ、社会の信頼を得られない。具体的には、原子力施設に関するリスクを評価するだけではなく、評価に基づき、リスクを管理できるかどうかを判断し、必要な対策まで示して初めて信頼される。
海外では、科学的不確実性を伴う問題への専門家の選定方法、果たすべき責任の規範作りが進められている。例えば、米国原子力規制委員会(NRC)は、地震関連リスクに対する専門家選定のガイドラインを定め公開している。日本においても、断層評価については、関連する学会に委員推薦を依頼する方式に改めたが、専門家の選定をさらに透明化し、科学的不確実性を乗り越える努力を続けるべきである。
(小林祐喜・笹川平和財団安全保障研究グループ研究員)
週刊エコノミスト2024年9月17日号掲載
FOCUS 敦賀原発2号機 規制委判断は「不合格」 不確実性の克服が必要=小林祐喜