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この秋、蚊の「波状攻撃」にご注意! 山田厚俊

11月まで活動が活発な蚊
11月まで活動が活発な蚊

 猛暑の8月を乗り越え、ホッとしたのもつかの間、今年は例年になく〝蚊の波状攻撃〟シーズンの到来だそうだ。耳元で鳴るブーンブーンの音、刺された後のかゆみの記憶が蘇ってくる。なぜ、どうして? 知られざる蚊のメカニズムから対策までを専門家に聞いた。

▼ヒトスジシマカ、アカイエカの2種類が11月まで活動活発

▼蚊は黒い服、足がにおう人に寄ってくる

 今夏は猛暑で寝苦しく、日中も熱中症対策などで苦労することが多かった。しかし、一つだけ嬉(うれ)しかったのは、蚊に刺されなかったことだ。暑すぎて蚊もいなくなったのかと喜んでいたさなかの8月26日夜、とうとう蚊に刺された。もう夏も終わりに近づきつつある中、どういうことなのか。

 蚊の研究を30年以上続けている害虫防除技術研究所代表で、医学博士の白井良和さんの言葉に耳を傾けてみよう。

「夏の日中に活動するのは、一般的にやぶ蚊と呼ばれ、青森県以南に分布するヒトスジシマカで、外で刺されるのはこの蚊の場合が多い。このヒトスジシマカは気温が25~30度前後で活発に活動しますが、35度を超えると活動せず木陰などで休み、人の血を吸うことも少なくなります」

 蚊は、水たまりなどに卵を産む。孵化(ふか)してボウフラになり、成虫(蚊)となる。産卵から蚊になるまで早ければ約1週間ほどだという。蚊になってからは2週間から2カ月ほど生きるそうだ。

 ちょっとした水たまりさえあれば、蚊の発生サイクルは短期間で成立する仕組みだといえよう。また、蚊は人の血を養分として生きているわけではないという。栄養素としては糖分が必要で、砂糖水を与えていれば生き延びるのだそうだ。人の血はメスが産卵に必要なアミノ酸を蓄えるためだと白井さんは語る。

 この蚊の発生サイクルを妨げていたのが、猛暑となった気温と極端に少なかった降水量だ。

 東京都を例に見ると、8月はほとんどの日の最高気温が30度以上。最低気温も1〜20日までは25度を下回る日が4日しかなかった。

 また、気象庁によると、梅雨明け以降の7月下旬〜8月中旬は降雨量が少なかった。新潟、富山、石川の広い範囲で平年の20%以下だった。一時的に雨が降り、水たまりができても、高温ですぐに水が蒸発してしまう日が長く続き、蚊が発生しにくい状況だったのである。

 ところが、台風10号の影響などで水たまりができやすくなったことと、気温がやや下がってきたことで蚊が増えやすい環境が整ったのだと白井さんは指摘する。記者が刺されたのは最近羽化したヒトスジシマカではないか、とのことだった。

 それだけではない。アカイエカという種類の蚊は初夏と秋口に活発になる。要は、これからもう1種類の蚊も活動する〝蚊の波状攻撃〟が起きるというのだ。アカイエカは、家の中に侵入し、特に夜活動する。つまり、日中外出すればヒトスジシマカに刺され、帰宅し就寝後にはアカイエカに刺される可能性が大だという。「ヒトスジシマカは9月から10月末まで注意が必要で、長いと11月下旬ごろまで人を刺すことがあります。アカイエカは元々9月から11月に多く、夜に人を刺します。ヒトスジシマカが遅れて出てきたことによって、2種類の蚊の対策が必要になっています」(白井さん)

害虫防除技術研究所の白井良和代表
害虫防除技術研究所の白井良和代表

 蚊対策と言われても、無頓着な記者は恥ずかしながら蚊取り線香や防虫スプレー程度しか思いつかない。そこで引き続き、白井さんに助言を求めた。「家の周りでなるべく水たまりをなくすことです。ガーデニングや家庭菜園などが趣味で、庭やベランダに植木鉢などを多く置いている方は要注意です。こまめに水たまりができていないかをチェックし、余分な水は捨てていくことが重要です。また、成長した草花の余計な葉は切り、木陰を取り除くこと。雑草なども取り除き、蚊が身を潜める空間を少なくすることが大切です」 雨水ますや廃タイヤなども要注意だろう。とにもかくにも自宅周辺の「ちょっとした水たまり」には注意が必要だということだ。

 服装も要注意だと白井さんは語る。「蚊は色の識別能力があり、濃い色、特に黒を好みます。なので、黒でコーディネートしたファッションの人に蚊が集まりやすい。これは、蚊が吸血対象とする動物の色に近く、身を隠しやすい保護色だからです。服装はなるべく淡い色にした方がよく、白がベストです」

◇世界では蚊の感染症媒介事例も

 また体にぴったりフィットした服は、服装の上から刺される場合があるため、少しゆったりめの服装にすることもオススメだという。 また、言わずもがなだが、清潔にしていることも重要だ。白井さんは、蚊に対してにおいの実験も行っており、「足の裏のにおいの原因物質、イソ吉草酸(きっそうさん)が特定の濃度に達すると、蚊が誘引されることが分かりました」

 別名イソバレリアン酸と呼ばれるイソ吉草酸は、独特なチーズ臭を放つ。寝ている間、足元がよく刺されると思っている人は、実はこの〝足が臭い〟ことが原因だったのかもしれない。

 とはいえ、「足だけを念入りに洗っても、上半身をいいかげんに洗っていたら足以外の場所を刺される可能性が高い。入浴時は全身を丁寧に洗うことを心がけてください」(白井さん)と言う。ごもっとも。反論の余地はない。 外出時は虫よけスプレーなどで予防はしっかりとし、帰宅時には家の中で蚊取り線香や液体蚊取り、蚊取りマットなどで家の中に潜む蚊を退治することも欠かせない。「気管などが弱い人は換気をしっかりして対策に当たってください」(同)

 たかが蚊。されど蚊だ。近年、世界各地でデング熱やウエストナイル熱などの感染症を媒介する蚊の報告があり、国内にも入ってくるリスクが高まっており、厚生労働省のホームページでも注意を呼びかけている。神経質になり過ぎてもよくないが、日ごろからしっかりとした対策を心がけておくことは極めて重要ではないだろうか。<サンデー毎日9月22,29日合併号(9月10日発売)より>


■やまだ・あつとし

 1961年、栃木県生まれ。建設業界紙記者、タウン紙記者を経て、95年黒田ジャーナル入社。阪神・淡路大震災取材に従事。主宰する黒田清氏逝去後、大谷昭宏事務所に転籍。2009年からフリー。普段は永田町を中心に政治取材を行うが、編集部イチの音楽オタクで、仕事の合間を縫っては音楽ライブを楽しんでいる

サンデー毎日0922-29合併号表紙_高橋文哉
サンデー毎日0922-29合併号表紙_高橋文哉

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