投資・運用 NISAの見直し術

長期投資にショックは不可避 今夏の急落でも売却に走った投資家は少数派 前山裕亮

 最近NISAを始めた人の中には7月末からの株価急落で不安にかられた人もいただろう。しかし5年、10年と投資をしていくと、こうしたショックは数度起こりうるもので、そのことを日ごろから意識して投資したい。

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 新NISA(少額投資非課税制度)ではインデックス型の外国株式投信が爆買いされてきたが、そのインデックス型の外国株式投信は7月中旬以降、逆風が吹いた。世界的に株価は下落し、しかも為替市場では急激に円高に振れ、基準価額が7月上旬の高値からだと最大で15%以上も下落した外国株式投信が多かった。

 そのような中、やはりインデックス型の外国株式投信で売却がいつも以上に膨らんだようだ。新NISA口座のみのデータではないが、実際に8月2日、5日、6日の3営業日連続で売り越され、3日累計の売り越し額(解約額から設定額を引いた額)は1000億円程度になった模様である。SNSなどで新NISA口座から売却を報告している投稿も散見された。

 しかし、実際にはほとんどの人が今回の急落を静観、もしくは淡々と買い付けを継続していたと筆者は推察している。そもそもインデックス型の外国株式投信はこの1月から7月までの累計で5兆4000億円も買い越されており、7月末時点の残高が22兆円を超えていた。1000億円という金額自体は大きかったが、これまでの爆買いや残高と比べると相対的に少額であり、売却は本当にごく一部であったためである。さらに8月も月を通じて見ると累計で5000億円以上買い越されている。

 ただし、今回の急落はとりあえず持ち直すのが早かったことに助けられた面もあっただろう。売却や買い付けの停止をするか悩んでいる間に基準価額が下げ止まり、ある程度戻ったため、結果的に静観できた人がいたかもしれない。

今一度、自己点検を

 今回のように世界的に株価が大きく下落すると、全世界などに地域分散した株式投信をしかも時間分散して購入していたとしても、一時的に含み損に陥ってしまうことがある。制度全体にはなるが、つみたてNISAの運用実績をみても、2018年末や22年末にはマイナスになっており紆余(うよ)曲折があったことが分かる。それでも6年累計で4.5兆円買い付けがあり、23年末に1兆2000億円程度の未実現を含む収益が上がっていた。収益率にすると26%にとどまったが、これは年々、口座の増加とともに買い付けが増えていたためである。制度開始の18年からインデックス型の外国株式投信で積み立て投資を6年間継続していた方はもっと収益を上げられているはずである。

 新NISAを活用していく上で長期投資も重要で意識したいが、長期投資は「言うはやすく行うは難し」である。7月中旬から1カ月ほど先述したSNSの投稿などを見て不安になりながら生活した人もいたのではないだろうか。長期投資であれば過度に気にする必要はないと理解していても、やはり含み損を抱えてしまったときなどには心穏やかになれないものである。もしSNSなどで不安をあおられるような投稿を見てしまった場合はなおのことである。

 実は筆者自身も恥ずかしながら個人投資家として初めてのショックとなった13年5月のバーナンキ・ショックの際に苦い経験がある。12年に購入し始めてからしばらく投資環境が良好で、前のめりに自分自身のキャパ以上に投信を買いすぎていたこともあり、ショック時に投信の含み損を見ては当時の職場でため息ばかりついていた。

 5年、10年といった期間、投資していくと少なくとも2、3回は今回もしくは今回以上のショックに出くわすものである。SNSなどの情報に惑わされずショックに耐え、投資を続けていくためには平常時から心にゆとりを持てる範囲内で行うことを心がけたい。今回、バーナンキ・ショック時の筆者と同じように心のゆとりがなくなった方はご自身のリスク許容度以上に前のめりに投資されていた可能性がある。毎月の購入金額などを今一度、見直してみてはいかがだろうか。

(前山裕亮〈まえやま・ゆうすけ〉ニッセイ基礎研究所主任研究員)


週刊エコノミスト2024年9月24・10月1日合併号掲載

NISAの見直し術 投信の再考 長期間でショックは数度起こる 投資は心にゆとりをもてる範囲で=前山裕亮

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NISAの見直し術14 長期・分散・積み立てが原則 「金融リテラシー」を高めよう■荒木涼子16 強気 「植田ショック」から始まる大相場 日経平均は年末4万5000円へ■武者陵司18 大恐慌も 世界経済はバブルの最終局面へ  実体経済”に投資せよ■澤上篤人20 中長期目線 「金利ある世界」で潮目変化  [目次を見る]

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