NISAの原点に立ち返り「金融リテラシー」を高めよう 荒木涼子・編集部
「貯蓄から投資へ」の動きが着実に進んでいる。フィデリティ投信が実施した「ビジネスパーソン1万人アンケート2024年」で、投資している人が昨年の51%から54%に上昇したことがわかった(正規雇用者ベース)。
投資を始めるきっかけのトップは1月から始まった新NISA(少額投資非課税制度)で、63%だった。以下、インフレ(26%)、投資への知識が増えた(24%)、世の中の雰囲気(19%)──と続く。特にきっかけが新NISAと応えた586人は、男女ともに20〜50代で大きな違いはなく、年代にかかわらず現役世代には、新NISAが投資を促していることが同アンケートで裏付けられた(図1)。特に、女性では非正規雇用者も動かしていることにも注目だ。
投資を始めたきっかけには他にも、「収入減など思わぬ事態で投資の重要性に気づいた」も12%で、強い期待もうかがえる。
そんな「投資初心者」も多く参入し始めた金融市場では、今夏は初の試練となっただろう。日経平均株価が1980年代末の最高値を今年に入って更新し、4万円を突破する一方、8月5日には87年のブラックマンデーを超える4400円超の急落。その後は急回復する乱高下で、「相場の怖さ」を初体験したにちがいない(図2)。
「このまま投資を続けて大丈夫?」。そんな不安に襲われた投資家は、もう一度原点に回帰する必要がある。NISAとは、何を目的に創設された制度だったか、を。
貯蓄一辺倒だった日本の家計において、少額から中長期目線で運用し、家計の安定的な資産形成を目的とした制度だ。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資した場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかる。2014年にスタートしたNISAでは、売却益や配当が非課税になり、今年から投資枠が拡大し、恒久化された新NISAが始まった。
フィデリティ・インスティテュートの浦田春河首席研究員は「株式変動の歴史を見ると、ITバブル崩壊、リーマン・ショック、パンデミックで暴落しても必ず復活している。市場に参入し続けることが大事だ。その中で『生活費や万が一に備えた資金ではなく余資で行う』『投資の原則は長期・分散・積み立て』という原点を再確認したい」と語る。
また、アンケートでは「投資を増やした理由、減らした理由」も聞いた。すると、「増やした」「減らした」人のどちらも2割前後が「市場の変動が激しい」を理由に挙げた。余資での投資であれば、株価が下がった時はむしろ買い時だ。改めて金融リテラシーの大切さがうかがえる。浦田首席研究員は「より自分の資産状況に合った投資を行うためにも、金融リテラシーは高めたい」と話す。
割安感で買収も
では、今後の日本の株価はどうなるのか。米フランクリン・テンプルトン傘下のマーティン・カリーで20年以上日本株をカバーする三戸玲子日本株ストラテジー・リサーチ部長は「日米の政治状況に大きな混乱がなければ、堅調に推移する」と予想する。
「日銀の利上げは株価を押し下げるような水準まで上がるとは考えられない。むしろ利上げができるくらい経済基盤がしっかりしていることは株価にもプラスに働く。PER(株価収益率)は14倍程度で割安感があるくらいだ」
さらに日本株にとって、カナダの大手流通企業がセブン&アイ・ホールディングスに行った買収提案はプラスに働くと期待する。「日本の企業経営者への警告になったと考えている。円安と日本株が割安に放置されている状況は、海外の有力企業やファンドからみれば、非常に魅力的。改革を進め業績を改善し、株価を上げることが最大の買収防衛策だ」(三戸氏)
(荒木涼子・編集部)
週刊エコノミスト2024年9月24日・10月1日合併号掲載
NISAの見直し術 長期・分散・積み立てが原則 「金融リテラシー」を高めよう=荒木涼子