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教養・歴史 著者に聞く

個人を追いつめる能力幻想から組織開発で生きやすい社会へ 北條一浩

『働くということ 「能力主義」を超えて』

著者 勅使川原真衣さん(組織開発専門家)

てしがわら・まい 1982年生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て独立。2020年から乳がん闘病をしながら活動中。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』『職場で傷つく』など。

 あの人は仕事ができるけど、こちらはできない。私たちはそんな評価を当たり前のように口にする社会に生きている。仕事ができないのは能力が備わっていないか、あるいは努力が足りないからで、いずれにせよそれは個人に起因すると考えられている。そんな、多くの人が疑ってもいない現状に対し、ほんとうにそうなのか?と問いかけるのが本書だ。

「私が学んだ教育社会学の最大のテーマは、不平等の再生産について検証することです。機会の平等は言われるようになりましたが、結果の不平等、つまり生まれ落ちた環境に有利・不利があるのに、公教育の同質性によってあたかも公平な競争を経ていると錯覚している状況はずっと変わっていません」

 できる/できないという物差し、つまり「能力主義」にかねてから違和感のあった勅使川原さんが、大きな一歩を踏み出す重要な出会いがあったという。

「大学の学部から大学院に進むあいだの1年間、オーストラリアで日本語教師をしていた時期があるんです。その時、小学生時代は『リーダーシップがありすぎる』と疎んじられるくらいだった私が、『真衣には指導力がない』と逆のことを言われました。日々悩む中でその後師事する苅谷剛彦先生の本に能力は固定的に存在して人を断罪するものではないといった指摘があり、『これだ!』と強く思いました。そして、まるでラブレターを書くようにして研究計画書を作成して先生に送り、以降、能力という概念について本格的に考えるようになりました」

 どんな環境の中でどんな仕事をするのか。それによってその人が力…

残り525文字(全文1325文字)

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