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イスラエルのヒズボラ空爆で高まったイラン本格介入の恐れ 斉藤貢

イスラエルとヒズボラの衝突は激化している(Bloomberg)
イスラエルとヒズボラの衝突は激化している(Bloomberg)

 イスラエル軍と、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラの衝突が激化している。9月23日にはヒズボラの施設にイスラエル軍が空爆し、報道される死傷者の人数が増え続けている。17、18両日にはヒズボラ関係者に配布された数千台のポケベルや携帯無線機が突然爆発、子供2人を含む37人が死亡し、3000人が負傷した。

 ヒズボラと敵対関係にあるイスラエルは関与を認めていないが、同国が通信機器の流通過程で爆弾を仕掛けた可能性が濃厚とされている。関与が事実であれば、国家主体の無差別テロに近い。19日、ヒズボラ指導者のナスララ師は「越えてはならない一線を越えた」と同国を非難し、報復を明言。衝突激化は避けられず、ガザに続き、中東の大混乱劇の第2幕が始まる可能性が高まっている。

 昨年10月に始まったパレスチナのイスラム原理主義武装組織ハマスとのガザでの衝突は、すでにパレスチナ側に4万人以上の死者、イスラエル側に約1200人の死者を出す大惨事だ。しかも関係当事者たちはそれぞれの思惑から、11月の米国大統領選挙の結果待ちの様子見モードに入ってしまった。イスラエルは、ヒズボラとその後ろ盾となるイランが少なくとも大統領選前までは動かないと見切り、より大胆な行動を取るようになっている。

首相の自己保身

 大胆な行動の最大の理由は、イスラエルのネタニヤフ首相の側にある。辞任要求が高まり、自己保身のために危機的状況を続けなければならず、停滞するガザの衝突に代わりヒズボラとの対決を画策しているためだ。イスラエル世論もヒズボラとの開戦を支持する。

 実際、イスラエルは4月以来、ダマスカスのイラン大使館を空爆したり、ヒズボラの要人を殺害したりして、執拗(しつよう)にヒズボラとその後ろ盾のイランを挑発。一方の、ヒズボラとイランは、イスラエルとその同盟国である米国と衝突して勝てる見込みがないので報復は最小限にとどめて隠忍自重に努めている。にもかかわらず18日、イスラエルのガラント国防相は、「戦争の重心は北部(レバノン国境)に移っている」と宣言。イスラエルがヒズボラとの大規模衝突を決断した可能性が高く、今回の空爆や通信機器の爆発は、前触れだと見られる。

 仮にイスラエル・ヒズボラ間で大規模衝突が起きれば、イランが本格介入する可能性が高い。世界で唯一、イラン型イスラム革命のイデオロギーを受け入れるヒズボラを、イランは見捨てるわけにはいかないからだ。

 イランが位置するペルシャ湾地域は世界の原油生産の約3分の1を占めるといわれている。イスラエルとイランが本格的に衝突すれば、世界の原油供給への影響はもちろん、この地域に90%以上を依存する日本も、人ごとでは済まされない。両国と良好な関係を有する日本は衝突を阻止するための外交努力が求められているのではないか。

(斉藤貢・元駐イラン大使)


週刊エコノミスト2024年10月8日号掲載

イスラエル軍空爆 ヒズボラ排除へ「賭け」 混乱劇「第2幕」近づく=斉藤貢

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