金利復活で有利な高配当株と内需株 中西拓司・編集部
日銀の追加利上げ(7月)以降、大きく調整した日本株。「金利復活」の今こそ、長期で保有する銘柄を探したい。
米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを進める一方、日銀が年内の追加利上げを模索する中、日本株は神経質な展開が続いている。二十数年ぶりの「金利ある世界」の到来で、投資家は金利に負けない「価値」ある銘柄の選択が求められている。
一般的には、金利が下がると株価は上がり、金利が上がると株価は下がる傾向にあり、シーソーのような関係といわれているが、実際には複雑だ。日経平均株価と長期金利(10年国債利回り)の推移を示した(図1、拡大はこちら)。
2005年以降は「金利低下・株安」→「金利低下・株高」と続き、20年以降はおおむね「金利上昇・株高」の傾向が続く。金利と株価の関係はその時々の金融情勢に左右されるため、相関関係は見いだしにくい。
9月下旬には自民党総裁選とともに、その後は衆院の解散総選挙もささやかれる。11月には米大統領選挙も控えており、株式市場の方向感を定めにくい展開が続きそうだ。
ニッセイアセットマネジメントの吉野貴晶・投資工学開発センター長は「日銀が年内、さらに追加利上げを決定し、さらに『金利ある世界』に踏み込めば、日米の金利差が縮小してドル安・円高方向に進み、年末には1ドル=130円台半ばまで円高になる可能性がある」と指摘。「円高で輸出産業の業績がマイナスになれば株価にとってはネガティブな材料になる。銘柄によっては金利や為替の動きに大きく左右される展開が続くだろう」と指摘する。
「金利復活」を前提にした銘柄選定はどう進めればいいのか。
吉野氏が、東証33業種別株価指数の週次騰落率のデータを基に、金利が1%上がった際の感応度を統計的に分析したところ、金利上昇がプラスに働くのは、①銀行業、②保険業、③証券・商品先物取引業──などとなり、「高配当株」「内需株」中心のセクターが並んだ。これらの業種は一般的には「金利敏感銘柄」と位置づけられており、統計的な分析でも裏付けられた(表)。
金利が高ければ、借りたお金の金利よりも、高い金利で貸し出した場合に得られる「利ざや」が増え、銀行にとっては収益拡大の余地が生まれる。銀行株の中でも特にメガバンクに上値の余地がありそうだ。
逆にマイナスに働くのは①不動産業、②精密機器、③医薬品──となった。不動産業にとっては、不動産投資のために調達した資金の利払い負担が増えるため業績には不利に響くとみられる。
金利上昇でプラスに働く業種として、5位に自動車などの「輸送用機器」が含まれている。一般的に自動車産業は輸出産業のため、円高局面では業績面ではマイナスに表れるイメージがあるが、自動車産業は景気(金利)に連動する側面もあり、金利上昇の局面では株価としては値上がりする傾向が表れている。
株主資本配当率がカギ
一方、金利上昇局面では、成長性が高い「グロース株(成長株)」よりも「バリュー株(割安株)」が伸びる可能性が高い。10年以降の両方のデータを指数化(バリュー指数÷グロース指数)した結果、長期金利(10年国債利回り)との連動性がみられた(図2)。
ハイテク銘柄などが多いグロース株は、将来の期待が現在の株価に織り込まれているため、株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)が高く評価されており、金利上昇時には割高銘柄として敬遠される傾向がある。また、グロース企業は一般的には将来の成長を見越して借入金が多い傾向があり、金利が上がれば業績面ではマイナスになる事情もある。
銀行などの成熟産業が多いバリュー株は、現在の企業価値に比べて株価が割安なため、金利上昇の悪影響がグロース株に比べて回避される傾向がある。バリュー株は配当や株主優待などの株主還元が手厚い企業が多く、銘柄選定のポイントになりそうだ。
では具体的な銘柄をどう選べばいいのか。吉野氏は「株主還元を重視するのであれば、株主資本配当率(DOE)を基準に銘柄をスクリーニングする手法もある」と指摘する。DOEとは株主資本のうち、何%を配当に回すかを示す指標。一方、個人投資家などが銘柄選定の際によく使用している「配当性向」は、その時々で変動が大きい当期純利益をベースに算出しており、DOEの方が業績のブレが少ない傾向がある。
投信は高配当のアクティブ型も選択肢に
投資信託はどう考えればいいのか。投資信託では、株価指数に連動するインデックス型と、運用会社が有望だと判断した銘柄に集中投資するアクティブ型に大きく分かれる。「金利復活で株価が乱高下する中ではインデックス型に加えて、バリュー株や高配当株を主軸にしたアクティブ型にも目を向けてはどうか」。SBI証券の川上雅人シニア・ファンドアナリストは指摘する。
高配当のアクティブ型としては、日経平均採用銘柄のうち、予想配当利回りの上位30銘柄に投資する「日経平均高配当利回り株ファンド」などがある。市場全体に幅広く投資するインデックス型と同時に、投資対象を絞り高いリターンを狙うアクティブ型を併用する方法もある。
ただインデックス型は信託報酬などのコストが安く初心者には手を出しやすいが、アクティブ型はコストとともにリスクも比較的高く、ファンドによっては収益がインデックス型よりも悪化する場合もある。
川上氏は「各投資信託の目論見書やレーティングのほか、長期の運用成績などを自分の目でチェックし、リスクの許容範囲とリターンを見極めたうえで自分に合った金融商品を選定してほしい」と話す。
(中西拓司〈なかにし・たくじ〉編集部)
週刊エコノミスト2024年10月8日号掲載
いまこそ始める日本株 金利復活で「バリュー株」に妙味 高配当株や内需株が選択肢に=中西拓司