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凋落するインテルにクアルコムから買収提案報道 吉川明日論
半導体世界大手、米インテルの凋落(ちょうらく)が鮮明だ。8月1日に2024年4~6月期決算で約16億ドル(約2300億円)の最終赤字と配当の停止、従業員1万5000人の削減を発表した。また、9月16日にはファウンドリー(受託生産部門)の分社化を発表、その4日後、米半導体設計(ファブレス)大手のクアルコムがインテルに買収提案したと報じられた。
9月30日時点で両社から正式コメントはないが、成立すれば巨額案件になるのは確実。長年、「世界最大の半導体企業」(売上高)であったインテルだが、AI(人工知能)用の半導体で急成長した米エヌビディアに株式時価総額では約30倍の差を付けられている。インテルは業績も弱含みの予測で、株価はピーク時の3分の1の水準で低迷する。
30年間盤石だったインテルはなぜ弱体化したか。主な原因はリーダーシップの欠如だ。1980~90年代に同社を率いた3代目社長・CEO(最高経営責任者)の故アンディ・グローブ氏のもと、メモリーからCPU(中央演算処理装置)にかじを切り、パソコン、サーバー市場の拡大の波に乗り急成長した。
グローブ氏の著書にちなみ「パラノイア(病的な心配性)」と呼ばれたカリスマ経営者のもと、インテルは常に危機感を抱えながら技術や市場の変化に即応し、躍動的に変遷する半導体産業で王座を守り抜いた。
しかし、00年代後半以降、デジタル機器の主役がパソコンからスマートフォンへと変化する中、当時のポール・オッテリーニCEO(5代目)が退任した2013年あたりから経営が漂流。製品と製造の両輪で最強のIDM(垂直統合型半導体製造業)だった同社は、製品では米AMD、エヌビディア、クアルコムなどのファブレス企業から追撃を受けた。
製造面ではファウンドリーの台湾積体電路製造(TSMC)に大きく水をあけられた。変化に機敏に反応してきた技術中心の企業カルチャーに緩みが生じ、度重なる人員削減で頭脳流出に歯止めが利かない。
大規模な業界再編へ
黄金期にCTO(最高技術責任者)を務めたパット・ゲルシンガー氏がCEOとして21年に復帰。TSMCに肩を並べるファウンドリーに向けた計画を進めてきたが、足元のビジネスの弱さが露呈し、5年の長期戦略が財務的に破綻し始めた。受託生産部門を分社化し、外部資本受け入れを構想するが、現在米オハイオ州などに建設中の受託生産にも対応する巨大な先端ロジック半導体工場には一段の設備投資が必要となる。
スマホ市場をリードするクアルコムとパソコン、サーバー市場が強いインテルは補完的で相性がいい。しかし、TSMCに匹敵するファウンドリーを目指す計画にはリスクが伴う。米アップルなどTSMCが抱える大手顧客を取り込めなければ、建設中の巨大な製造能力を埋めることができず、減価償却の重圧がのしかかる。クアルコム以外にも複数のインテル救済案、買収提案が出てくると予想される。業界再編へのきっかけになるかもしれない。
(吉川明日論・ライター)
週刊エコノミスト2024年10月15・22日合併号掲載
FOCUS 凋落するインテル クアルコムから買収提案報道 巨大工場建設の重すぎる負担=吉川明日論