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中国が44年ぶりに太平洋へICBM発射 対米攻撃力を示し抑止強化を狙う 小原凡司

中国軍が公開したICBM発射時の画像(9月25日、ニューズコム=共同)
中国軍が公開したICBM発射時の画像(9月25日、ニューズコム=共同)

 中国は9月25日、太平洋に向けて大陸間弾道ミサイル(ICBM)を試験発射した。中国国防部は、発射は年度軍事訓練計画に基づくもので、いかなる国や目標を対象にしたものではないとする。しかし、太平洋に向けてのICBM発射は44年ぶりだ。この時期の発射には政治的メッセージが込められていると考えるのが妥当だろう。

 国防部によると、中国人民解放軍ロケット軍は太平洋の公海に向けて訓練用模擬弾頭を搭載したICBMを発射し、正確に予定海域に落下させた。太平洋へ向けたICBM発射は「東風(DF)-5」(1980年)以来となる。

 国営新華社は今回の発射から24時間後、人民解放軍が公表した4枚の高解像度の写真を公開した。中国は、米国に到達するICBMとして「DF-5」「DF-31」「DF-41」の3種類を保有しているが、ミサイルや発射台の形状などから、発射されたのは改良型の「DF-31AG」とみられる。

 このミサイルは、2017年7月末の人民解放軍建軍90周年記念軍事パレードで確認された。部隊配備後、一定の時間が経過したこのタイミングで試験を実施する必要性は低いと考えられることも、政治的メッセージがあると考えられる要因の一つだ。そのメッセージを送る相手は主として米国だろう。

日本に通知せず

 欧米諸国の中には、中国ロケット軍内部の腐敗や、それにも関連する高級将校の大規模な交代を根拠に、中国人民解放軍の戦闘能力に疑念を抱く分析もみえる。それは、中国指導部にとってゆゆしき問題である。「米国に対する核抑止が効かなくなる」との懸念が生まれるためだ。抑止は認識の問題なのである。

 中国は自国が軍事力を用いても米国が軍事介入しないよう、対米抑止を強化したいと考えている。今回は、中国はICBMを太平洋に向かって発射してみせることで、改めて米国に対して戦略核兵器を用いた攻撃能力を示したかったとみられる。

 日米と中国とで目標の優先順位も異なる。日米は軍事衝突を回避し、秩序と安定の維持が目標なのに対し、中国は「米国主導」の秩序を否定し、武力行使を含むいかなる手段を用いてでも「領土の統一」などの目標達成を優先する。

 中国は発射について、米国や豪州などへ事前通知しているが、報道によれば日本政府は通知を受け取っていない。日本を相手にしていないとのメッセージとも受け取れるが、あえて日本に通知しないことは、日本の防衛努力や同盟国などとの協力強化について中国が神経質になっていることの裏返しとも考えられる。

 中国が情報収集など戦争準備とも捉えられる行動を活発化させているのは事実だ。言語および、軍事力を含む非言語手段による「戦略的コミュニケーション」を用いた、各国の応酬は今後も続くことになる。

(小原凡司・笹川平和財団上席フェロー)


週刊エコノミスト2024年10月15・22日合併号掲載

FOCUS 中国ICBM発射 太平洋へ44年ぶりに 対米抑止の強化示す=小原凡司

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