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ワシントン路地裏散歩ツアー 南北戦争以来の変遷をたどる 吉村亮太

裏通り沿いの住宅には馬小屋を意味する「stables」の文字が復活している(筆者撮影)
裏通り沿いの住宅には馬小屋を意味する「stables」の文字が復活している(筆者撮影)

 ワシントンDC中心部の道路は格子状に延びるが、それらに仕切られた四角形の街区の内部には、時にHの文字のような形状の裏通りが存在する。名称すら明確でないこともあるが、これでもれっきとした公道だ。ダンプスター(ごみ収集箱)置き場や駐車場になっていることもあり、すべてが絵になるわけではないが、勇気を出してひとたび狭い路地を入ると、その奥に想像を超える開放的な空間が広がる。石畳や壁画が隠れていたり、古いレンガのおしゃれなレストランや戸建てがあったりして、タイムスリップしたかのような不思議な気分になる。

 時間があるとガイド付きのウオーキングツアーに参加しているが、当地の裏通りの変遷をテーマにしたコースがたまたまあったので行ってみたら、これが思いのほか面白かった。自分の住む街の地理や歴史のような身近なテーマになると自然に食指が動くものだ。

 1790年にポトマック河畔の地がアメリカ合衆国の首都に選定されると、ピエール・ランファンの基本計画に基づきワシントンの建設が始まる。宅地は京都の町家に似た区割りで、表通りに面した細長い長方形に分かれていた。古都と異なるのは敷地の奥が必ず裏通りに接していたことだ。

 1860年代に入ると奴隷制の是非を巡り南北戦争が勃発する。新都の人口増により住宅が不足し不動産が高騰すると、家主たちは裏通りに面した部分に小屋を建てて労働者階級に貸し出し、小遣い稼ぎをした。これがワシントンの路地裏住宅の起源となる。上下水道などもちろんない。初期の店子(たなこ)は白人が多かったが、戦後は自由人の身分を得たアフリカ系米人が南部から流入し、人種構成は変わっていった。事情を知らない「…

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