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在米日系企業は米新政権の“内向き化”政策に備えよ 松浦大将

 米大統領選が目前に迫り、選挙が日系企業のビジネスに与える影響にも注目が集まっている。その影響を考えるためには、米国で起きている政治の趨勢(すうせい)変化を捉え、各候補が打ち出す政策の性質を理解することが重要である。

 現代の米国政治を読み解く上で見落とせないのが「米国民の内向き化」だ。過去数十年の米国は、グローバリズムやITなどの技術革新の恩恵により、強い経済成長を続けてきた。一方で、これらの環境変化は米国内の資本家と労働者の間に大きな所得格差をもたらした。中国をはじめとする新興国の台頭により、米国の伝統的な製造業で働く中低所得層は自身の仕事が奪われたという意識を持ち、自分たちの生活を最優先する政策を求めるようになった。

 両候補の政策はこうしたニーズに応えることに力点が置かれている。

 具体的には、民主党ハリス氏は、富裕層や大企業への増税を財源に、中間層への減税を推進する。共和党トランプ氏は、関税により他国製品を排除することで、国内の製造業者を保護することを目指す。世間には「トランプ氏の政策が米国を保護主義に走らせている」という論調があるが、実際には「内向き化した米国民がトランプ氏の掲げる保護主義政策を求めた」と言えよう。

日系企業に厳しい

 両者の政策は、あくまで米国の中間層の利益を追求することが目的であり、富裕層や大企業、もしくは日本を含めた外国企業は恩恵を受ける対象になりにくい。例えば、ハリス氏の政策が実現した場合、法人増税により現地の日本企業は租税負担が増加することになる。トランプ氏の政策は、法人減税によるポジティブな側面が注目されがちだが、関税引き上げによるネガティブな影響の方が大きくなる可能性が高い。

 米国に拠点を置く日系企業は、仕入れのおよそ半分を米国外から調達しており、関税の影響を受けやすい体質にある。仮にトランプ氏が日本に対する関税を1%でも引き上げた場合、在米日系企業にとっては、法人減税による利益押し上げ効果が帳消しにされてしまうのだ。

 こうした考察を踏まえると、日系企業は、両者の内向き政策がもたらすコストの所在や大小に注意を払いながら、大統領選後の変化に備えておく必要があるだろう。

(松浦大将・みずほリサーチ&テクノロジーズ上席主任エコノミスト)


週刊エコノミスト2024年10月29日・11月5日合併号掲載

米大統領選 国民の内向き化を反映 コスト見極めが重要に=松浦大将

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