円とドル・120年の興亡・上(歴史編) 依然として円高の大きなうねりの中にある~転換点は昭和40年代 吉野俊彦(1994年3月8日)
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2国間で貿易が行われれば、2つの通貨の交換比率、つまり為替レートが必要になる。明治時代にアメリカとの貿易が始まった時、1ドルは1円だった。そこから現代に至るまでのドル円相場の推移を、自らを「歴史派エコノミスト」と称した元日銀理事の吉野俊彦さんが詳細に解説した。アーカイブスで振り返る。
日米包括経済協議の決裂が、昨年夏以来の円高を招いている。日米の経済力を映す鏡とも言うべき円とドルの相克をたどり、両国経済の課題を探る。筆者は、昭和40年代に始まった円高の大きなうねりは、日本の巨額な経常収支黒字が減らない限り、まだ続くと見る。
歴史を学ぶ重要性
日米交渉が不調に終わったことで、昨年夏以来くすぶっていた円高問題が、再び大きな関心の的となっている。しかし、現在の諸問題を考える前に、まず円高がどのようにして進んできたか歴史的アプローチが必要不可欠だと、私は考える。すべての経済現象は、すぐれて歴史的性格をもつものであり、為替問題も決してその例外ではないからである。
円高の進展への対応が、目下、日本経済の課題になっているが、この問題を考えるにあたり、まず必要なことは、円とドルの相場がいつごろ生まれ、どのような歴史的な発展過程をたどって今日に至ったかを跡づけることである。
なぜならば、現実の円とドルの為替相場は、学者が理論的に考えた購買力平価を基にして設定されたものではない。1871年(明治4)に、日本がアメリカに遅れて金本位制度を導入したとき、両国の金貨の金の純分の比から決まった円とドルの為替相場が出発点となり、その後、世界の主要国が金本位制度を離脱した後においても、それに諸々の複雑な要素が影響して、今日の為替相場になっているからである。
為替を含めた経済の問題は、自然科学のように実験ができないだけに、歴史的な考察を行うことによって、むしろ問題の本質に最も近く接近することが可能になるのでは…
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週刊エコノミスト
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