経済・企業 インバウンド新次元

訪日客数が過去最高を更新へ 課題は自然観光への誘導戦略 村田晋一郎・編集部

自然観光の強化が地方のインバウンドのカギを握る(北アルプス乗鞍岳中腹の紅葉、10月15日)
自然観光の強化が地方のインバウンドのカギを握る(北アルプス乗鞍岳中腹の紅葉、10月15日)

 訪日旅行客はコロナ禍前を超える勢い。だが、都市部集中など課題も浮上している。

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 2024年2月からインバウンド(訪日旅行客)が月別で過去最高を超えるペースで増えている(図1)。コロナ禍前のインバウンドの最高は19年だったが、8月の時点で19年より1カ月早く累計2400万人を達成、9月の時点での累計は2688万人で前年の年間2506万人を上回っている。このままのペースが続けば、これまでの過去最高の19年の3188万人を超えるとみられる。

 足元の状況について、9月の国・地域別の訪日客を見ると、韓国、台湾、香港、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、豪州、米国、カナダ、メキシコ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、北欧地域、中東地域の18カ国・地域で過去最高となった。円安の恩恵は大きいが、日本政府観光局(JNTO)によると、米国や韓国、台湾など元々ボリュームが多い国がインバウンド本格再開以降順調に伸びており、全体の好調を支えている。中国はコロナ禍前に及ばないものの、個人旅行客を中心に順調に回復している。

 また、その他の要因として、東南アジアの国々や豪州では、子供の学校休暇に合わせた家族旅行の需要を的確にとらえていることが大きい。

目的が明確な個人客

 消費額も順調に伸びている。観光庁のインバウンド消費動向調査では、24年7~9月期の消費額(1次速報)は19年同期比64.8%増、前年同期比41.1%増の1兆9480億円となっている。国別の内訳は中国が26.6%、次いで台湾が14.6%、韓国が11.7%、米国が9.5%で続く。

 昨今の都市部のラグジュアリーホテルの増加やホテル宿泊費の高騰を反映してか、費目別の内訳を見ると、24年7~9月期の宿泊費は33.7%で、19年同期比の29.9%から拡大している。また、コロナ禍前のインバウンドの消費行動は主に中国人客の爆買いが印象的で、買い物代が19年7~9月期は33.2%あったが、24年同期比は28.9%に縮小している(図2)。

 爆買いのような巨額の買い物から、最近は体験型の観光、コト消費に注目が移っている。費目別内訳においても、娯楽等サービス費は、19年7~9月期の4.1%から、24年同期比は4.7%に拡大しており、コト消費にシフトしている兆しはうかがえる。

 また、コト消費の中心となるのは個人の旅行客だ。コロナ禍前は中国からの団体客が需要をけん引していた側面があるが、現在は個人の旅行客が需要のけん引役になりつつある。

 JNTO企画総室の冨岡秀樹担当部長は、「以前は、日本に行ったことがないから行ってみよう。でも詳しいことは分からないから団体旅行のツアーに参加するという流れがあったが、最近は個人旅行が多くなっていると感じる」としたうえで、「個人の旅行客は、自分たちの関心にターゲットを絞って、どこで何を食べたいとか、どこの何が見たいとかをある程度決めてきているケースが多くなっていると思う」と語る。

地方は自然観光が強み

 政府は30年にインバウンド6000万人の目標を掲げているが、そこに至る過程として25年に達成を目指す短期目標を設定している。具体的には、①19年の水準(3188万人)のインバウンド、②1人当たり消費額が20万円、③1人当たりの地方部宿泊数が2泊。このうち、②の1人当たり消費額は23年にクリアし、①のインバウンドの19年水準超えは今年達成する見込みで、残るは③の地方部宿泊数だ。つまり、地方にいかにインバウンドを誘客できるかになる。

 JNTOは23年、国・地域別に日本の地方エリアへの訪問意向がどの程度あるかを調査した。地方だけに行きたい人と、都市に加え地方にも行きたい人を合わせた地方への訪問意向は、東アジアでは8割以上、欧米では5~7割となった。つまり地方観光の需要は高い。

 JNTO企画総室広報グループの中山友景氏は“その土地ならでは”がキーワードだと語る。地方への訪問意欲の高い観光客は、その土地ならではの飲食、風景、自分の国とは違う文化を求めているという。特に冬の雪景色や温泉は、人気が高いようだ。

 そして、その土地で何が体験できるか、地方のコト消費も重要なポイントとなる。星野リゾートの星野佳路代表は、自然観光の重要性を訴える。

「地方が文化観光だけを押していくと、東京、京都、大阪には勝てない。インバウンドが東京、京都、大阪に集中している原因の一つは、文化観光が強いからだ。一方で、35の国立公園など、多様な自然があることは日本の特徴でもある。カナダやスイスのように自然観光のコンテンツを強くしていくと、東京、京都、大阪との差別化になり、地方が自立できる観光になっていくと思う」(星野氏)

 こうした地方のコンテンツの開発と同時に、やはり地方の観光インフラの整備が必要となる。

「地方に興味を持つ訪日客が目的地に行けているかという問題がある」とJNTOの冨岡氏は指摘する。地方の情報提供に加え、交通手段、宿泊施設の整備は急務だろう。

(村田晋一郎〈むらた・しんいちろう〉編集部)


週刊エコノミスト2024年11月12・19日合併号掲載

インバウンド新次元 過去最高を更新の勢い 個人のコト消費がけん引=村田晋一郎

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