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北朝鮮のウクライナ派兵の見返りはスホイ35など航空技術か ロシアは紛争拡大リスクを甘受 渡辺武
北朝鮮が、ロシアの基地に派兵したことが10月下旬、明らかになった。米国による推測でその規模は現時点で1万人。ウクライナ戦争は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記にとっては、プーチン露大統領から「先進科学技術」を得る機会だ。そのためには派兵という形で、侵略を誰よりも強く支援せねばならない。
ロシアはおそらく一度は、技術提供に躊躇(ちゅうちょ)を見せた。露朝首脳会談の翌月となる2023年10月にロシア外相が訪朝したが、このとき金氏は首脳間合意の「忠実な実現」の重要性を強調している。公な言及は、履行に向けて圧力をかけようとしたからだろう。続く外相会談で北朝鮮側は、合意の例に「先進科学技術」交流を挙げた。
焦点のひとつは航空技術である。ロシアの北朝鮮への航空技術の提供は、1990年代におけるミグ29戦闘機の組み立て生産への支援を最後に知られていない。しかし、首脳会談の際に金氏はロシアの航空機工場を訪問し、スホイ35などの新鋭機を見学した。同機種は高価なため北朝鮮が取得できなかったといわれており、金氏は暗に、代金なしでの技術や機体の提供を求めたのであろう。
軍事協力が代金次第だったとすれば、そもそも北朝鮮の戦略的な価値が低いことになる。北朝鮮の軍事力は米韓軍に対するものだが、ロシアは朝鮮半島の米軍を脅威と見なしていない。北朝鮮の軍事能力を支援してもロシアの安全には貢献せず、望まない朝鮮半島情勢のエスカレーションにつながるばかりだろう。
それは核やミサイルなどでも同様だ。北朝鮮は核先制に向けた能力構築を目指す。支援により、ロシアがエスカレーションに巻き込まれるリスクが高まる。
突出した支援
プーチン氏にとって、金氏が他国と同水準で戦争を支持する程度では、このリスクに値する利益にならない。北朝鮮は派兵という突出した支援をして初めて、「先進」技術を提供するに値する特別な存在となる。
ただし派兵しても、長期的に北朝鮮の戦略上の価値が高まるわけではない。ロシアが戦争で優位になったり、逆に戦意を喪失したりすれば派兵の価値は著しく低下する。ロシアが最も派兵を必要とし、最大の対価が得られるのはいつか。派兵のタイミングは、これを判断する北朝鮮なりの戦況へのインテリジェンスに基づくのかもしれない。
言い換えれば、「先進科学技術」が得られる派兵の機会は、今のほかにほとんど考えられないのだろう。北朝鮮は、ロシアが技術支援を実行するのを確認しつつ、支援を拡大し派兵に至った。そうだとすれば、派兵に相応する「先進科学技術」協力が既にあった考えたほうがよい。
北朝鮮は、自らの価値が期間限定であることを知っており、だからこそ侵略への協力も急いでいる。今であればロシアは、核や軍事技術の拡散によるエスカレーションのリスクを甘受する──北朝鮮はそう見て派兵したのだろう。
(渡辺武・防衛研究所アジア・アフリカ研究室長)
週刊エコノミスト2024年11月12・19日合併号掲載
FOCUS 北朝鮮のウクライナ「派兵」 見返りはスホイ35など航空技術か ロシアは紛争拡大リスクを甘受=渡辺武