政府が目指す実質賃金引き上げは難路 愛宕伸康
石破茂首相は所信表明演説(10月4日)で、「一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現していく」と述べた。岸田文雄政権時代の「経済財政運営と改革の基本方針2024」もそうだったが、政府は実質賃金の引き上げを目指している。
賃金指標の一つである雇用者報酬を見てみよう(図1)。雇用者報酬とは、労働を提供した人が受け取った報酬のことで、24年4〜6月期は名目が前年比3.8%増と大きく伸びたものの、インフレ率(家計最終消費支出デフレーター)が3.0%と高かったため、実質では同0.8%増と微増だった。政府はこの実質雇用者報酬を伸ばそうとしている。
名目雇用者報酬は、強かった今年の春闘を反映するかたちで7〜9月期以降も同4%程度の高い伸びを続けるだろう。ならば、インフレ率さえ低くなれば、実質雇用者報酬は増える。家計最終消費支出デフレーターは消費者物価とほとんど同じ動きをするので、それが運良く2%で落ち着けば、「物価安定の目標」(消費者物価上昇率2%)を目指す日本銀行にとっても願ったりかなったりだ。
労働生産性の上昇がカギ
しかし、ここで筆者が「運良く」と言ったのにはわけがある。名目雇用者報酬の伸びとインフレ率がどこに落ち着くか分からないからだ。実質賃金の伸びは中長期的には労働生産性の伸びに依存する。潜在成長率から労働投入量を差し引いた日本の労働生産性は…
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週刊エコノミスト
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