電力需要拡大へパラダイム転換した日本のエネルギー政策 小山堅
データセンターや半導体工場の増加による電力需要の拡大は、日本の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の議論にも影響を与える。
脱炭素化とエネルギー安全保障の両立を目指すエネルギー転換を進める上で、深刻化する世界の分断、中東情勢などの地政学リスクの高まりなど、多様で複雑な問題が山積する。化石燃料の安定供給を図りつつ、クリーンエネルギー投資を加速化しなければならない。エネルギー転換を成功させるため、産業政策の活用も不可避だ。
こうした新情勢の中、新たにエネルギー政策上の重要課題として、改めて電力安定供給の重要性がクローズアップされている。日本でも2022年に現実の問題となった電力需給逼迫(ひっぱく)が重要な契機となり、電力安定供給確保は一気に重要性を高めた。電力需要の将来をどう見るかが大きなポイントとなる。
日本は経済成熟、人口減少という趨勢(すうせい)の中、エネルギー需要は低下するとの見方が主流だった。しかし、重要な変化が生じつつある。第一には、脱炭素化の影響がある。その推進のためには、エネルギー利用の中での電力化を推し進め、その電力をゼロエミッション(二酸化炭素排出ゼロ)電源で賄うことが最も効果的な処方箋となる。
日本もカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指す中、電力化の進展は避けられず、電力需要増大への圧力がかかる。第二には、新たな情報革命の影響がある。生成AI(人工知能)の急速な利用拡大とそれに伴うデータセンター(DC)や半導体工場の大増設などで、電力需要の大幅な増加を予想する声が高まっており、国が年度内の閣議決定を目指している第7次エネルギー基本計画の議論でも、中心的課題の一つとなる。
全国の電力需給を調整する電力広域的運営推進機関(OCCTO)が今年1月に示した今後10年間の見通しによると、23年度で8000億キロワット時まで縮小した電力需要(全国)は増加に転じ、33年度には約8400億キロワット時に拡大するとみる。昨年1月時点の見通しでは将来的に微減すると予測していたが、DCや半導体工場の新増設などを反映させた。DCの建設が先行する米国でも、米電力中央研究所が5月、電力需要が最大で年15%増加すると発表した。
原発活用など論点に
もちろん、脱炭素化や新たな情報革命の影響については、いまだ不確実な要素も多く、実際にどの程度、日本の電力需要が増大するのかを正確に見通すことは容易ではない。省エネ効果でエネルギー需要がどう抑制されるのか、生成AIの利用拡大で逆にエネルギー・電力の効率的利用促進につながるのではないか、DC自体の省エネ改善をどう見るか、など先読みは難しい。
一方で「将来は低下する」との見方が支配的だった状況から「大幅に増加するかもしれない」という方向にパラダイムシフトしたことは重大だ。電力安定供給のための全体の投資決定判断から、建設・完成・操業に至るまでのリードタイムの長さを考えると、需要増大の可能性への対処は待ったなしの課題になるためだ。
しかも、その電力を安定的に手ごろな価格で、しかもゼロエミッションの電源で賄うことが必要になる。その主力として今後も大幅な増加が予想される太陽光・風力などの再生可能エネルギーについては、供給が天候などで変動し、供給適地が需要地から遠隔に多く存在するため、需要と供給をマッチさせるための電力連系線の強化が必要になる。そのため、米国などでは、新型の小型モジュール炉(SMR)などを含む原子力への期待や地熱発電などの再エネ活用にも注目が集まる。
日本でも、今後の電力需要増大に対応し、再エネの増強と出力調整への対応強化、原子力の活用などがエネルギー基本計画策定での議論の中心になるだろう。また、全体としての電力供給力(電源)の確保に向けた制度整備、再エネの出力変動を調整するための火力の活用とそのための燃料調達の確保が重要になる。また、発想を転換し、系統最適化の観点から電源の近くに電力需要施設を立地・建設することなども含め、総合的な見地からの電力安定供給対策が重要になるだろう。
(小山堅〈こやま・けん〉日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員)
週刊エコノミスト2024年11月26日号掲載
電力インフラ大投資 エネルギー政策 電力需要増へパラダイム転換 供給力の安定確保が重要課題=小山堅