“DC銀座”千葉・印西には発熱する巨大な箱が建っていた 中西拓司・編集部
ナシ畑が点在し、黄金色のススキが揺れるのどかな田園風景が広がる一方、窓のない巨大な箱状の建物が林立する──。東京都心部から電車を乗り継いで約1時間。成田国際空港にも近い千葉県印西市が今、全国的にも有数の「データセンター(DC)銀座」として変貌を遂げている。
DCは、インターネットでつながったサーバーなどの機器を設置するために特別に作られた建物。高速回線のほか機器を冷やすための冷却システムが備えられている。膨大な個人情報だけでなく、中央省庁や企業などの機密情報も扱うためセキュリティーは厳しく、免震性や耐震性も強化されている。電源が止まって冷却も止まれば機器が壊れてしまうため、非常用電源なども完備する。
印西市によると、DCは2019年ごろから市内で建設が相次ぎ、現在は確認できるだけで11事業者・30施設が同市内でDCを運営している。ただ、重要データなども扱うため具体的な規模や場所を公表していない企業も多く、市担当者は「実際にはもっと多いだろう」と話す。大和ハウス工業も1000億円超を投じ、国内最大規模となる「DPDC印西パーク」の整備を進めている。25年までに14棟(約33万平方メートル)を整備する。
機密性が強いDCだが、住友商事の連結子会社SCSKが同市内で運営する「netXDC千葉センター」の取材が許可された。全3棟あり、取材したDC(消費電力12.8メガワット時)は地上6階建てで、最大1600ラックのサーバーを収容する。「ラック」とは、サーバーなどを収める金網状の棚のこと。大型冷蔵庫ほどの大きさで、鍵を閉めてサーバーを管理する。国内外数百の企業・団体のサーバーを管理している。
サーバーなどの電子機器は熱を放つため24時間・365日、DC内の空調や冷却機器を稼働させる必要がある。室内のラックからはサーバーの排気音が聞こえ、近寄るとわずかな発熱を感じる。例えれば、運転中の大きな電子レンジのようだろうか。室内は米国のガイドラインに基づき、18~27度になるよう維持されている。
1分の停止で5度上昇
サーバーは家庭用プリンターほどのサイズだが内部には機密情報が集まり、その管理には企業の命運がかかる。SCSKの小笠原寛事業本部長は「顧客のサーバーを守るのが私たちの使命。サーバーを安定稼働させるためには、冷却システムと電力の安定供給が非常に重要だ」と話す。停電などで冷却機能がすべてダウンすれば、室内の温度は機器が出す熱のため1分で5度程度上昇するという。
かつては自社でサーバーを管理する企業が多かったが、現在は安全対策上、自社のサーバーをDCに置いたり、DC内のサーバーを借りたりするケースが増えている。印西市にDCが集中立地する背景には地盤が安定しているとされることに加え、システム障害などの緊急時に企業のシステムエンジニア(SE)らが駆けつけやすいよう、都市部に近いエリアを選んでいることもある。外資系企業には成田国際空港に近いことも魅力で、「INZAI」が定着している。
一方、生成AI(人工知能)で使われる画像処理半導体(GPU)を内蔵したサーバーが今後拡大するとみられており、DCでの設置も増えそうだ。SCSKのDCにあるGPUサーバーに近付くと一般的なサーバーより音が大きく、うるさいほど。機器の熱もより熱く感じる。情報の処理量が多いため、消費電力量や発熱もその分、多くなる。
GPUサーバーを管理するには、冷却効果を上げるために特別なスペースを設け、ラックに冷却水を循環させる最新式空調機(リアドア式)を設置するなどの整備が必要だ。SCSKのDCでもGPUサーバー用のスペースを設置し始めたが、利用を希望する企業が最近相次ぎ、現在は予約でほぼ埋まっているという。
23年春に運用を始めた、同市にある米グーグルのDCも訪ねた。無機質な外観のDCが多い中、同社のDCには企業カラーの青、赤、黄、緑のラインが描かれている。建設作業員らが大勢出入りし、内部でさらに大きな工事が進んでいるようだ。同社は、広島県三原市と和歌山市にもDC用の土地を取得したとみられ、三原市ではDCでは国内最大となる1000億円規模の投資が見込まれている。
24年ぶりの変電所新設
グーグルのクラウド事業を運営する担当者に取材を申し込んだが「受けられない」との回答だった。「なぜ印西なのか」をメールで聞いたところ、「高速で最適なエクスペリエンス(体験)の提供には、(DCの)地理的な分散が重要。信頼性を確保するために独立したインフラを維持し、ユーザーの近くで運用することでよりスムーズなサービス提供が実現できる」との返信が来た。
DCの建設は周辺のインフラ投資にも波及する。DCの電力供給を賄うのが東京電力パワーグリッド(PG)だ。印西市や白井市、船橋市を合わせたエリアでの電力需要は、27年度には現在のほぼ倍に増えるとみられる。東電PGは今年6月、新設した超高圧変電所「千葉印西変電所」(印西市)の運転を開始した。同社の変電所としては実に24年ぶりの規模という。
また、既存の新京葉変電所(千葉県船橋市)と千葉印西変電所とを地下トンネル(長さ約10キロ)で結び、超高圧ケーブルをつなげる大規模工事も、20年からわずか4年間で完成させた。これにより、印西での供給能力は50万キロワットから計170万キロワットに増強された。さらに、DCの建設が増加してGPUサーバーの設置が拡大すれば電力需要が一段と伸びるため、27年度には230万キロワットに増やす計画だ。
米国勢調査局によると、米国のDC建設支出は23年、182億ドル(約2兆7300億円)と19年比でほぼ倍増し、今年も9月時点の年率換算で288億ドルと急増を続けている。総務省によると国内のDCは24年3月時点で219施設と、米国(5381施設)の4%ほどにすぎないが、米アマゾンが今年1月、27年までに2兆2600億円を投資すると発表するなど、米大手事業者が大型の国内DC関連投資を相次いで打ち出す。
大林組が今年11月、都市部に立地するDC事業に参入すると発表したように、他業種からの参入も広がる。今後も国内のDCは増加を続けることが確実で、大型の投資が不動産や建設、電気設備など関連産業にもたらす効果も計り知れない。
(中西拓司〈なかにし・たくじ〉編集部)
週刊エコノミスト2024年11月26日号掲載
電力インフラ大投資 ルポ “データセンター銀座”千葉・印西 「発熱し続ける巨大な箱」林立=中西拓司