インタビュー「DCの分散立地で再エネの地産地消を」江崎浩・東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長
データセンター建設で電力の逼迫(ひっぱく)が懸念される。デジタル社会での電源確保のあり方を日本データセンター協会副理事長を務める東京大学大学院の江崎浩教授に聞いた。(聞き手=中西拓司・編集部)
日本でのデータセンター(DC)の歴史は諸説あるが、実質的には1990年代以前にさかのぼる。当時は金融機関などのコンピューターネットワークの一つとして始まり、そのデータを扱うのは専門家に限られていた。95年にマイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」が登場してインターネットが急拡大し、ネットサービス提供者を相互接続する拠点としてDCが登場した。
2000年代前後からさまざまなものがデータ化、ウェブ化され、ネットワーク上にあるデータがどんどん増えた。同時に、グーグルやヤフーなどによる検索システムが登場してデータがより利用しやすくなった。10年代ごろからSNS(ネット交流サービス)が進展し、今や大人から子どもまでデータを発信する時代になった。
スマートフォンがあれば誰でも写真を撮影して送受信でき、その大量のデータをクラウド上に保存できる。さらに、生成AI(人工知能)の登場で、今後はデータの「共有」から「利用」へ進化していく。最近では、現実世界の環境をネット空間に再現する「デジタルツイン」と呼ばれる技術が進み、データ使用量は今後も事実上無限に増え続ける。
一方、コンピューターの規模や能力も格段に進化している。自転車や原付きバイクが、大型自動車や新幹線、さらにはロケットの規模へ進化したイメージだ。例えば、生成AIの利用では大量の画像処理装置(GPU)サーバーを使うが、発熱量が大きく、安定的に使用するにはサーバーの冷却のためにも大量の電気を必要とする。首都圏や大阪圏を中心にDCの建設が進んでおり、電気の使用量は増加の一途をたどる。
DCや半導体産業を支えるエネルギー源として、最も要望されるものは言うまでもなく再生可能エネルギーだ。しかし、再エネの電気を消費地につなげる送電網は十分ではないし、新たに整備するには多大なコストと時間がかかる。それなら、再エネの「生産地」周辺に、DCや半導体工場を設置する「地産地消」型の電源ネットワークを進めることが最も効率的だ。
一方で、DCは首都圏、大阪圏に集中しているが、分散立地を早急に進めるべきだ。11年の東日本大震災の際は、ダウンしたDCは確認されていない。国内のDCは十分な地震対策が施されているが、もし運用がストップすればスマホなどの使用に大きな影響が出て、社会・産業活動が大打撃を受けるだろう。
インフラ整備の税制優遇を
今後想定される首都直下地震や南海トラフ巨大地震などの自然災害に備え、脱炭素エネルギーの割合が高い、北海道、九州地方を第3、第4の拠点エリアとして整備するべきだ。インターネットは国民にとって最重要なライフラインの一つであり、それを支えているのがDCだ。DCを安定的に誘致して維持するため、DCと連携した電力供給システムをより一層安定させて強化するとともに、送電網などの電源インフラの整備に向けて、税制優遇など公的なバックアップの仕組みを検討してほしい。
集中立地を見直し、地方分散に向けてエネルギーインフラを早急に確立すべきだ。そうした取り組みが、結果的にはカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)にもつながる。(談)
(江崎浩〈えさき・ひろし〉東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長)
週刊エコノミスト2024年11月26日号掲載
電力インフラ大投資 インタビュー 江崎浩 東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長