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国際・政治 トランプ復活

米国も中国に似た政権になる? 三権分立が空洞化するトランプ2.0 中岡望

ハリス氏の敗因はさまざま指摘されるが……(Bloomberg)
ハリス氏の敗因はさまざま指摘されるが……(Bloomberg)

 11月5日投開票の米大統領選は、事前の世論調査ではハリス副大統領とトランプ前大統領の接戦が予想されていたが、結果はトランプ氏の圧勝に終わった。

 多くの論者は選挙結果について、さまざまな理由を指摘している。その一つが、バイデン大統領の撤退が遅すぎたため、ハリス氏が十分な選挙準備ができなかったとする「バイデン責任論」だ。政策もバイデン政権を継承する内容で、最大の柱であった中産階級にアピールする政策も新鮮さに欠けたこと。ハリス氏は最後まで「自分が何者か。何をしたいのか」を有権者に示すことができなかったと指摘されている。

 中絶問題で女性の高投票率が期待されたが、ハリス陣営は思ったほど多くの女性票を獲得できなかった。また、2022年の中間選挙の時から指摘されていたヒスパニック系と黒人有権者の民主党離れがさらに進んだことが決戦州での選挙結果に影響した。

 ハリス氏は、民主党の支持基盤である労働組合の支持も十分に得ることができなかった。「全米トラック運転手組合」の委員長が初めて共和党全国大会で演説し、最後までハリス氏支持を表明しなかった。それが労働者票の多いペンシルベニア州やオハイオ州などの敗北につながったとの見方もある。最終的に有権者が重視したのは、「中絶問題」や「民主主義の危機」ではなく、インフレをはじめとする経済問題だったと指摘する論者もいる。

 トランプ陣営は保守派のキリスト教徒エバンジェリカル(福音派)や白人労働者を主体とする「トランプ連合」の支持を確実に固め、20年の前回大統領選で敗れた州を奪回することに成功した。トランプ氏の一連の訴訟問題や、選挙運動中のさまざまな人種差別発言、性差別発言は、選挙にほとんど影響を与えなかった。むしろ、トランプ陣営が訴えた「不法移民問題」や「治安問題」が有権者にアピールした。

 それぞれの分析は正しいが、筆者は最大の要因は「ハリス氏の指導者としての資質」にあると考える。アメリカ人は“強い指導者”を求める。公開討論会やさまざまなインタビューを見ていて、「ハリス氏がアメリカを指導できるのか」と疑問に思った。多くの有権者も同様な不安を抱いたのではないか。トランプ氏は傲慢でうそをつくが、有権者には強い指導者の印象を与えた。

 さらに決定的な事実は、一般有権者による投票(ポピュラーボート)の獲得数である。民主党は過去、大統領選で敗北しても、一般票獲得で共和党を上回ってきた。だが今回、ハリス氏が獲得した一般票はトランプ氏の獲得数を下回っている。アメリカ社会の保守化は着実に進んでおり、今回の大統領選もそうした流れの中にあった。

権威主義的な政権に

 さらに今回の選挙の特徴は、共和党は大統領だけでなく、上院の過半数を獲得し、下院でも過半数を獲得する見通しである。その結果、トランプ氏は行政府と立法府、司法の三権を掌握することになる。最高裁の9人の判事のうち共和党系は6人で、そのうちの3人はトランプ氏が前大統領時代に指名した人物である。三権が相互チェックをするという民主主義の原則である「三権分立」が空洞化する可能性がある。

 最高裁は多くのトランプ寄りの判決を出している。特に今年7月、トランプ氏が前回20年大統領選の敗北を覆そうとした罪で起訴されている裁判を巡り、「大統領の免責特権」を認めた判決は、今後のトランプ政権の動きを理解する上で重要である。大統領は在職中の公的な行為については何をしても罪に問われないのである。バイデン大統領が「トランプ氏は民主主義の脅威」であると訴えていたが、それが現実のものになる可能性が強い。

 トランプ氏は大統領就任直後に自らが関与する訴訟に関して免責を主張し、裁判を中止させるだろう。21年1月に議会に乱入して有罪判決を受けた人物や訴訟中の容疑者に恩赦を与えるのは確実とみられる。司法省を使って政敵を粛清し、軍を使って「内なる敵」を排除すると公然と語っている。5000人の官僚をトランプ支持者と交代させるとも主張している。政府を完全に作り変えようとしている。

 トランプ氏は、司法に対する影響力の強化も図るだろう。連邦判事にトランプ派の人物を指名し、共和党が過半数を占める上院で承認させる。民主党は抵抗する余地はない。トランプ氏は三権を支配し、強大な大統領が誕生する。第2期トランプ政権は極めて権威主義的な政権になるのは間違いない。

 トランプ氏は集団防衛や同盟関係に対しても懐疑的で、米国が過剰な負担を強いられていると考えている。北大西洋条約機構(NATO)や日本、韓国などの同盟国に対して軍事費の増額を求めてくる構えである。トランプ外交がどのようなものになるかは、政権発足後に、どんなウクライナ政策とイスラエル政策を打ち出すかで、その姿が見えてくるだろう。

(中岡望・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年11月26日号掲載

トランプ復活 米国政治・外交 指導者の資質欠いたハリス氏 米社会で進む保守化鮮明に=中岡望

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