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国際・政治 トランプ復活

トランプ2.0は米国の成長を妨げる? インフレは再燃し財政収支も悪化か 高橋尚太郎

トランプ氏勝利に11月6日の金融市場は素早く反応した(Bloomberg)
トランプ氏勝利に11月6日の金融市場は素早く反応した(Bloomberg)

 トランプ前大統領が11月5日の米大統領選で勝利した。トランプ氏は現政権下で起きた高インフレなどの問題を攻撃し続け、米国民はハリス氏に現状を変え得るだけの力量を見いださなかった。ただ、皮肉にも、トランプ氏が掲げる政策はインフレ再燃につながるものが多い。

 トランプ氏の政策でマクロ経済に大きなインパクトを与えるものは、①関税引き上げ策、②移民政策の厳格化、③減税──の三つである。これに、脱炭素政策の巻き戻しやエネルギー分野の規制緩和など、個別セクターの政策が加わる。

 このうち、2025年は関税引き上げ策と移民政策の厳格化、26年は減税が進むと考えられる。というのも、関税引き上げ策は、大統領の権限で、議会との協力が必要なく実施できるものが多い。同様に移民政策も、司法の判断が必要なものもあるが、大統領令で実施できる余地が大きい。一方、減税は税制関連の法案化が必要なため、議会との調整が必要で、実現するとしても1年程度かかると見込まれる。

 25年に進むと考えられる二つの政策は、ともにインフレを招きやすい。関税引き上げ策としては、①中国からの輸入品に対する関税を60%まで引き上げる、②中国以外の国からの輸入品に対する関税を最大20%まで引き上げる──ことなどが掲げられている。これらが全面的に実施されれば、輸入物価が大幅に上昇することは避けられず、米国民が直接購入する消費財はもちろん、中間投入される輸入財の価格上昇を通じて、最大1%程度のインフレ上昇につながると試算できる。

 また、移民政策の厳格化は、再び人手不足に陥るセクターが増えることによって、賃金上昇を招く可能性がある。賃金コストの上昇は、主にサービス産業で価格に転嫁され、消費者物価が上昇することとなる。

 現在トランプ氏が掲げる政策がすべて実現すれば、消費者物価は1%以上も上昇する可能性がある。目前に見えてきた米国経済のソフトランディング達成は遠のく。

 もちろん、関税政策については、トランプ氏も影響の大きさを理解し、実施を控える可能性は十分にある。また、世界各国に対する10%の輸入関税の恒久化には法案化が求められ、議会の反対も多いとみられる。しかし、米国の対中強硬姿勢は一貫しており、対中関税の引き上げは段階的に実施される公算が大きい。また、移民政策に関しては、不法移民に対する国内不満の強さを受けて、厳格な政策を推し進めていくだろう。

前半2年間が勝負

 仮に25年中に対中関税が20~30%程度まで引き上げられる場合、厳格な移民政策の実施と併せてインフレ率の上昇や生産力の伸び鈍化を招き、個人消費の減速などを通じて、経済成長率は0.2~0.3ポイント程度は押し下げられる可能性がある。また、他国との貿易摩擦が強まった場合は、さらに経済への下押し圧力がかかる。

 トランプ前政権の関税引き上げ時は、景気悪化のリスクを見据えて利下げが実施された。ただ、現状はインフレ再燃懸念があり、利下げのペースは緩やかにならざるを得ない。利下げによる景気下支えはあまり期待できない。一方で、トランプ氏は米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に対しても介入を強める可能性があり、政策は混乱するだろう。

 26年ごろからは、ようやく減税による景気の押し上げ効果が本格化する。実際に、トランプ氏が掲げる減税策がすべて実現すれば、相当な景気浮揚効果が期待できる。トランプ減税延長(今後10年間で5.4兆ドル程度の規模と試算)は現状がそのまま維持されるだけで、景気を押し上げる効果はない。ただそれ以外の残業代非課税、社会保障給付の非課税、チップ非課税、法人税引き下げなどの減税措置(同3.8兆ドル程度)は26年の成長率をプラス0.5%程度押し上げる規模である。25年の景気減速を十分に取り戻すこととなる。

 ただし、これだけの規模の減税策により、財政収支バランスが大幅に悪化することは確実である。米国の超党派のシンクタンクであるCRFB(責任ある連邦予算委員会)によると、累積債務残高は現状名目GDP(国内総生産)比100%程度であるが、10年後には140%程度まで膨らむと予測している。財政の持続性に対する懸念、国債の需給悪化、インフレ懸念などが入り交じって、金利には上昇圧力がかかるだろう。金利上昇により、企業の資金調達コストの上昇や株価の下押し圧力が生じ、景気回復の勢いが抑えられると考えられる。

 また、こうした財政悪化に反対する勢力は共和党の中にも多い。トランプ新政権と議会の協議がうまく進まず、減税策が期待外れに終わることも十分に起こり得る。この場合は、関税引き上げ策と厳格な移民政策による景気減速をカバーしきれないこととなる。

 憲法の規定で3期目がないトランプ第2次政権にとって、レームダック化するまでの前半の2年間が勝負といえるかもしれない。しかし、現在掲げられている政策は米国経済の振れ幅を大きくする。トランプ新政権が景気動向に敏感に反応しながら、どの程度政策を進めるか注視される。

(高橋尚太郎・伊藤忠総研上席主任研究員)


週刊エコノミスト2024年11月26日号掲載

トランプ復活 米国経済 インフレ再燃で成長押し下げ 減税で財政収支悪化も懸念=高橋尚太郎

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