教養・歴史 書評

社交に欠かせないワインの基礎知識を軽快に伝授 評者・平山賢一

『ソムリエますぢが世界一やさしく教える 大人のワイン学校』

著者 鈴木培稚(ますぢ)(マスターソムリエ) 玄光社 1980円

すずき・ますぢ
 2003年にシュバリエ・ド・シャンパーニュ(シャンパン騎士団)の称号を授与され、13年には一般社団法人日本ソムリエ協会から「マスターソムリエ」の呼称を認定された。ユーチューブ「ますぢちゃんねる」配信中。

 金融界には、ワイン愛好者が多い。含蓄を語りすぎる飲み手は、敬遠されるものの、ある程度は基礎知識を知ったうえで宴席に臨みたいという向きも多い。さりとてソムリエ試験にチャレンジして、ワインエキスパートになるのはハードルが高いとお嘆きの方々に、都合の良い書籍が発刊された。ユーチューブでも人気のマスターソムリエ「ますぢ」が、目に優しいイラストを携えながら、軽快に筆を進めただけに、わかりやすく、ためになる。

 最近、人気が高まるオレンジワインとロゼワインの違いや、料理との組み合わせ(マリアージュ)に至るまで、単なる知識ではなく、実践的な知恵が薄い本からあふれ出る。たとえば、オレンジワインが「サバの味噌煮の缶詰」によく合い、シャンパンは「焼きはんぺん」との相性がよいなど、ほっこりする組み合わせが紹介されている。

 ビジネスで生かせる知識にとどまらず、庶民にとってうれしいのは、割安ワインを楽しむ術(すべ)だ。どの街にも必ずある人気チェーン店について、ワインを極めた著者がポジティブに評価していくのである。わが国では、豊かな食材やワインを、かなりの安価で提供する店であふれているから、このような楽しみ方ができるわけだ。このうれしい現実を改めてかみしめるとともに、普段の食生活にプラスアルファの味わいを添えていく工夫の数々を試したくなること、請け合いである。

 特筆すべきは、ワインをたしなむ際の「グラス回し」の紹介だろう。一般には、右利きの人はグラスを左回しに、左利きの人は右回しにするのがルールとされている。ワインがこぼれたときに人にかかりにくくするためだ。だが筆者は、右回しも左回しも積極的に推奨する。

 右回しの場合は、地球の自転との関係で「香りが穏やかでより甘味」が感じられる一方、自転に逆らう左回しでは、「より香りが際立ち、右回しでは感じられなかった奥深さ」に出会えるというのである。同じワインにもかかわらず、回す向きによって香りが変化するというのは驚きの見解に違いない。

 多くの人から賛同を得られる類いの説とは言えないと思うが、実際に試してみると、確かに微妙な香りの変化を感じられるようになるから不思議だ。同じ対象も、角度や視点によって感じ方が違うということか。新年にあたり、為替レートや株価も一呼吸おいて角度を変えてみると、異なる像が見えてくるかもしれない。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)


週刊エコノミスト2025年1月14・21日合併号掲載

『ソムリエますぢが世界一やさしく教える 大人のワイン学校』 評者・平山賢一

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