国際・政治 FOCUS
“おさわがせコンビ”トランプ氏&マスク氏との付き合い方 玉置浩平
1月20日の第47代米大統領への就任を目前に控えたドナルド・トランプ氏。その発言が連日、世界のメディアをにぎわせている。
「カナダは米国の51番目の州になるべきだ」「メキシコ湾を『アメリカ湾』に改称する」「(デンマークの自治領である)グリーンランドは米国が所有すべき」「パナマ運河を米国に返還せよ」──。いずれも19世紀の帝国主義を彷彿(ほうふつ)とさせる拡張主義的な響きを帯びている。特にグリーンランドとパナマ運河の獲得のために武力を行使しないとは保証できないという受け答えは波紋を呼んだ。
トランプ氏の自国中心主義や周辺国への不満は明らかだが、これらの発言はどこまで本気だろうか。米国内での地理的呼称の変更などを除けば、どれも一方的に実現することは不可能だ。グリーンランド購入は第1次政権時からの持論だが、選挙公約として掲げられることもなく、再提案には唐突感が否めない。
自身の予測不可能性を武器とするトランプ氏にとって、相手の驚愕(きょうがく)を呼ぶことは重要な戦術だ。一連の言動も、通商問題などでの「取引」を念頭に、威嚇とかく乱を意図したジャブというべきだろうか。実際、各国は発言に毅然と反論しつつも冷静さを保っているように見える。しばしば言及される「トランプ氏の言葉は文字どおりに受け取らず、真摯(しんし)に受け止めよ(Take Trump seriously, but not literally)」という教訓はその通りだろう。
リベラルへ反発
一方、トランプ氏との蜜月ぶりが注目される実業家のイーロン・マスク氏は、欧州への内政干渉ともとれる言動を繰り返している。同氏は英国で起きた児童性的虐待事件への対応をめぐり、労働党のスターマー政権を厳しく批判。また、ドイツの極右政党に対する支持を表明し、自らが運営するX(旧ツイッター)上で党首と対談を行った。
一民間人ながら米次期政権に大きな影響力を持ち、世界有数のSNSを支配するマスク氏による党派的な介入は、各国の強い反発を招いている。もともと欧州では米テック企業に対する警戒感が強く、さまざまな規制措置が講じられてきた。テスラやスペースXなどを経営する立場としては各国当局との摩擦を引き起こすのは本来得策ではないはずだ。
政府の規制を嫌う「リバタリアン」的な思想を持つとされるマスク氏だが、最近はリベラルな価値観に対する反発を鮮明にしている。欧州政治への関心も「ウォーク」(社会的正義を重視するリベラルを揶揄(やゆ)する言葉)から西洋文明を守るという意識が根底にあるのかもしれない。信念に基づく行動なら商業的利益は歯止めにはなりにくい。
他国の政治情勢への外国人の意見表明は必ずしも否定されるべきではない。ただ、偽情報の拡散や選挙干渉が各国で課題となる中、ロシアや中国などの懸念国ではなく、米国政府に近い人物が影響力を行使しているとみなされることの意味は小さくないだろう。
(玉置浩平・丸紅経済研究所上席主任研究員)
週刊エコノミスト2025年1月28日号掲載
FOCUS トランプ氏、マスク氏発言 領土拡張や欧州への内政干渉 「取引」念頭に威嚇とかく乱か=玉置浩平