健康拠点として地域に貢献――池野隆光・ウエルシアホールディングス会長
ウエルシアホールディングス会長 池野隆光
いけの・たかみつ
1943年広島県生まれ。同県立御調高校卒業。65年大阪経済大学経済学部卒業。71年池野ドラッグ(埼玉県坂戸市)を開業。2002年吸収合併により、グリーンクロス・コア(現ウエルシア薬局)に入社し、その後、副社長商品本部長に就任。ウエルシアホールディングス副社長などを経て13年から現職。日本チェーンドラッグストア協会名誉会長。81歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── ウエルシアホールディングス(HD)と、ツルハHDとの経営統合の協議が進んでいます。
池野 ウエルシアHDの売り上げは1.2兆円、ツルハHDは1兆円あり、ドラッグストア業界の1、2位による非常に大きな経営統合になります。少子高齢化で国内市場が縮小を続ける中、ドラッグストアがさらに成長し続けるためには、海外進出を見据えて経営規模を拡大する必要があります。海外で一定の利益を上げるには資本と時間が必要になるからです。2027年末までの統合を目指しています。一方、公正取引委員会の判断もあり、慎重に進めたいと考えています。
── 海外展開の方針は?
池野 17年からシンガポールで店舗を展開しており、その他の東南アジア諸国での進出も検討しています。国の大小に関係なく、私たちのビジネスがその地域で役に立つと確認できればぜひ展開したい。個人的には27年末よりも早い段階でツルハHDと統合し、新しいチャレンジに一緒に取り組みたいと思っています。
── 24年9月には、首都圏でドラッグストアを展開する「ウェルパーク」を子会社化するなど、数多くのM&A(合併・買収)を手がけました。社風が違う企業同士の融和に向けて心がけたことは?
池野 私たち小売業が相手にするのは、一般のお客様です。その意味では企業の規模の大小にかかわらず、「お客様のために何ができるのか」という基本は同じです。社風が違ったらお客様への対応が違う、ということはあり得ません。共通の目標に向けて一緒に取り組むという「心の統合」が一番大切です。一方で、M&Aで一緒になっても、規模が大きい企業のやり方が正しいということは全くありません。私自身もM&Aで一緒になった企業からたくさんの大切なことを学びました。
── ウエルシアHDが、イオンの連結子会社となって24年11月で丸10年となりました。
池野 イオンの資本を入れることで得た効果は絶大だったと総括しています。一方、イオンから学んだ最も大切なことは「社会を支える」という考え方です。イオンが取り組んでいる海外での植樹活動や、アジアの大学生への支援などの活動はその社員を強くします。こうしたイオンの姿勢は、ドラッグストアとしても非常に重要だと考えています。
── ドラッグストア業界全体の再編をどうみていますか。
池野 自分の感覚でしかありませんが、さらに進むだろうとみています。少子高齢化は「マーケットの縮小」も意味し、ドラッグストアだけでなくスーパーやホームセンターなどあらゆる業種が今後、縮小せざるを得なくなるでしょう。その中で生き残るには経営統合して体力をつけるしかありません。業界の統合が具体的にどう進むのかはわかりません。あるいは違う業種を含むのかもしれません。
介護事業を育成
── 東京電力HDの子会社で、介護事業を手がける「東電パートナーズ」を完全子会社化し、24年10月1日に「ウエルシアパートナーズ」として出発しました。
池野 介護事業は私たちのビジネスと親和性が高く、事業の柱にする方針です。ドラッグストアという「売り場」だけでなく、ウエルシアHDの店に行けば介護の問題も同時に解決できるといったように、「健康の拠点」としての機能を拡充したい。要介護認定を受けた人に介護サービス計画書(ケアプラン)を作成するケアマネジャー(介護支援専門員)の育成も進めています。高齢者にとって介護は、自分らしく生きるためには欠かせません。「人間の尊厳」を支える介護に会社として取り組みたいと考えています。
── 店舗の目指す方向性について「地域ナンバーワンの健康ステーション」を掲げています。
池野 介護のほか「(薬剤師が常駐して医療機関の処方箋に応じて薬を販売する)調剤併設」と「カウンセリング営業」「深夜営業」──の四つを店舗のモデルとして整備しています。一方、店舗に「ウエルカフェ」というフリースペースを作り、地域の「休息の場」や「井戸端会議の場」として活用してもらっています。自動体外式除細動器(AED)や、人工肛門や人工ぼうこうを付けている人(オストメイト)に配慮したトイレの設置も進めています。
── 狙いは?
池野 人は誰でも病気になる可能性があり、AEDやオストメイト用トイレの設置などを通じ、社会問題を解決できる企業であることを示したいと思っています。これらを「設備投資」とは考えていません。地域の安全や安心を提供することで、そこで働く社員が誇りを持てれば「教育投資」にもなります。モノを売る、買うだけではなく、地域の「困った」を救う店舗づくりをこれからも進めます。
(構成=中西拓司・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A 厳しい経験をたくさんしました。例えば石油ショックなどではどーんと売り上げが落ちました。そのたびに、今下がっているのはまもなく上がるためだと自分に言い聞かせました。
Q 「好きな本」は
A 松下幸之助さんら先人の経営者の言葉をスクラップブックに貼って読んでいます。
Q 休日の過ごし方
A プールで泳いでいます。泳ぐより、プールにいる地元の人としゃべる時間の方が長いかもしれません。
事業内容:調剤併設型ドラッグストアを全国展開。介護事業も
本社所在地:東京都千代田区
設立:2008年9月
資本金:77億4800万円
従業員数:1万5286人(2024年2月、連結)
業績(24年2月期、連結)
売上高:1兆2173億円
営業利益:432億円
週刊エコノミスト2025年1月14・21日合併号掲載
編集長インタビュー 池野隆光 ウエルシアホールディングス会長