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経済・企業 2024年の経営者

障害のない社会目指し海外でも一歩――山口文洋・LITALICO社長

Photo 武市公孝:東京都目黒区の本社で
Photo 武市公孝:東京都目黒区の本社で

山口文洋 LITALICO社長

やまぐち・ふみひろ
 1978年生まれ。私立桐蔭学園高校(神奈川県)卒業。2000年慶応大商学部卒業後、ITベンチャーなどを経て06年リクルート入社。リクルート執行役員を経て、22年LITALICOに副社長執行役員として入社。23年4月から現職。46歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 「障害のない社会をつくる」を企業理念に掲げています。障害者を取り巻く社会問題について、どのように取り組みますか?

山口 「障害」は人にあるのではなく、法律やルール、仕組み、制度など社会の側にあると考えています。私たちは障害がある方を直接的に支援しながら、今より生きやすく、働きやすく、学びやすいと思えるような環境、仕組み、制度、法律へ変えていくことをミッションとして掲げています。社名は「利他」と「利己」を組み合わせて「リタリコ」としました。関わる人を幸せにすることが自分の幸せにつながる──という意味を込めました。

── 具体的な事業は?

山口 障害がある方の学びや、就職、生活、老後まで、子どもからシニアまでを一気通貫して支援する店舗型のBtoC(一般消費者向け)サービスを展開しています。例えば、0~18歳の子どもと保護者に向けて、発達支援の最適な学びを提供する「LITALICOジュニア」(162施設)や、成人向けの就労支援サービスとして「LITALICOワークス」(143施設)を運営しています。プログラミングやロボットなどを使い、ITとものづくりを体験できる「LITALICOワンダー」なども展開しています。「ジュニア」では、1対1で子どもたちを支援する「パーソナルコース」も設けています。

業界の底上げ尽力

── 障害福祉業界全体でのシェアは?

山口 障害福祉施設は全国約18万事業所あるのに対し、私たちが運営している事業所はさまざまなサービスを合わせれば計約500施設あり、これでも業界最大手です。コンビニエンスストアは全国5万店舗あり、大手3社がほぼ分け合っていることを考えれば、障害福祉業界は小規模事業者が多数存在するフラグメンテッド(バラバラな)市場です。こうした状況の中、自分たちだけがビジネスを広げていくという姿勢ではなく、業界最大手として障害福祉業界の底上げに努めていく方針です。

── 障害のある人や福祉事業所に向けたインターネットプラットフォーム事業も展開しています。

山口 発達が気になる子どもの保護者や支援者向けポータルサイト「LITALICO発達ナビ」では、お子さんの発達に関するさまざまな不安の解消に向け、信頼性の高い情報を提供しています。また、自分のニーズに合った福祉事業所を検索できるサービスも展開しています。一方、業界は小規模事業所が多く人手も不足しているため、業務のIT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいない面もあります。BtoB(企業間取引)のビジネスとしては、複雑な補助金の請求など障害福祉に特化した「かんたん請求ソフト」などを事業所向けに提供しており、約2・5万事業所に利用いただいています。当社のようにBtoCの事業を展開しつつ、エンジニアやウェブのマーケティング担当など400人規模を有してインターネット事業を展開しているのは業界の中では唯一無二と自負しています。

── 社長就任から1年半が経過しました。経営陣の体制は?

山口 社長の私と前社長の長谷川敦弥会長、医療ITベンチャー「エムスリー」で取締役を務めた辻高宏副社長による「3代表制」で経営を担っています。私自身はリクルート出身でインターネット事業などを手がけ、オンライン学習サービス「受験サプリ」(現スタディサプリ)を新規事業として設立しました。3人が三位一体となってそれぞれのスキルを発揮しており、企業としての戦略、オプションの幅が広がりました。

── リクルートからなぜリタリコへ?

山口 スタディサプリの開発に当たっては、教育の機会を安価に提供し、教育格差を解消したいとの思いが根底にありました。生きづらく、働きづらいと感じる人をどう支援するのかが、私の情熱の源泉にあります。そんな中、2016年に長谷川社長(当時)と出会ったことが転機になりました。意見を交わす中で困っている人を支援したいとの気持ちが一層強くなり、リタリコへ飛び移りました。

── 海外展開は?

山口 米国・ネブラスカ州で障害者支援事業を手がける「DDCN社」を24年6月、子会社化しました。同社は(自傷や物を壊す状態が表れる)強度行動障害向けのサポートサービスを提供しており、現地でグループホームを運営しています。強度行動障害の支援は米国で拡大しており、現地で得た知見を日本へ持ち帰ったり、逆に当社が約20年にわたって培った障害福祉ビジネスのノウハウを現地で活用したりすることを検討しています。「障害のない社会をつくる」というチャレンジを、日本国内だけではなく北米でも進めようと第一歩を踏み出したところです。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 2006年にリクルートに中途入社し、15年に子会社の役員、18年にリクルート本社役員となり、激動の時期でした。無我夢中で寝食を忘れて働きまくっていました。

Q 「好きな本」は

A 『リーダーシップの旅 見えないものを見る』(野田智義氏、金井寿宏氏の共著)です。

Q 休日の過ごし方

A 家事や育児をこなしています。上場企業の社長の中で一番家事をしているという自信があります。


事業内容:障害者の就労・教育支援、障害者向けプラットフォーム

本社所在地:東京都目黒区

設立:2005年12月

資本金:5億円

従業員数:4714人(2024年3月末、連結)

業績(24年3月期、連結)

 売上高:297億9200万円

 営業利益:37億1500万円 


週刊エコノミスト2024年12月3日号掲載

編集長インタビュー 山口文洋 LITALICO社長

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