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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

「透明人間」を写す写真家――山本美里さん

次男の瑞樹さん(右)と写る山本美里さん。「子どもがどんなふうに生まれても、母親が自分の人生を自分で選択できる時代がきっと来る」 撮影=武市公孝
次男の瑞樹さん(右)と写る山本美里さん。「子どもがどんなふうに生まれても、母親が自分の人生を自分で選択できる時代がきっと来る」 撮影=武市公孝

医療的ケア児の母、写真家 山本美里/133

やまもと・みさと 1980年東京都生まれ。第3子で次男の瑞樹さんが2008年に生まれた直後、先天性サイトメガロウイルス感染症と診断。脳や体に重度の障害があり、医療的ケアが必要となる。勤めていた会社を退職して瑞樹さんの医療的ケアに専念。17年に京都芸術大学通信教育部美術科写真コースに入学し、瑞樹さんに常に付き添う自分自身を撮る作品制作をスタート。23年、卒業制作を再編集した写真集『透明人間-Invisible Mom-』(タバブックス)を出版。全国各地で作品展やトークショーを開く。

 思い描いた人生を歩めなくなった。医療的ケア児の母となった山本美里さんは、そうした思いと格闘する自分自身を被写体に、一冊の写真集として表現した。(聞き手=中西美智子・看護師、ライター)

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── 2023年末に出版した写真集『透明人間─Invisible Mom─』(タバブックス)では、脳や体に重い障害のある高校生の次男、瑞樹さん(16)の日常をとらえた写真や、教室にいるジャージーを着た人形に白いベールをまとった人物(山本さん)が「透明人間」のように寄り添っている写真が印象的です。写真集のタイトルにもなったこの写真の意味は?

山本 瑞樹は日常的にたんの吸引や人工呼吸器などの管理が必要な「医療的ケア児」です。私はほぼ毎日、瑞樹が通う特別支援学校に付き添ってはいますが、バックバルブマスク(手動の人工呼吸器)を使うなど、必要な時以外は呼ばれることなく、学校の控え室や瑞樹の背後で待機しています。後ろに座っているだけでも教室では目立ってしまうため、先生からは「気配も消して」と言われていました。

 親には給食もなく、配膳の時も目の前を素通りされます。「私のことが見えていないのかな」と感じ、「透明人間」をタイトルにしました。

── 自分自身が失われていく感じですね。

山本 高校卒業後、米国に留学し、希望通りの就職を果たして頑張ってきたのに、今、家で子どものためだけに生きている──。タイトルの「透明人間」には、学校内だけでなく社会から自分が隔絶されたという意味を込めています。付き添いのため仕事も辞め、土日のアルバイトしかできず、社会から消えてしまった人と思われた気がしていました。「自分の価値って何だろう」と思った時期がありました。

「そういう人生を歩みたかったわけじゃない」と思いながらも、そうとは言えず一瞬でもそう考えることに罪悪感が湧きました。そうして自分が失われていく状態は、おそらく誰しもが、自分の中に「透明人間」を感じるのではないかと投げかけてみたかったんです。

午後4時まで付き添い

── 毎日をどのように過ごしていますか。

山本 府中市(東京都)の自宅で午前5時半に起きて、6時には(チューブなどで胃へ栄養剤を送る)経管栄養をつなぎ、家事をしながら、1時間に3、4回、たんを吸引します。8時には家族が登校・出勤し、それが終わると、やっと瑞樹が学校に行くための支度ができます。学校に着くと、午後4時ごろまで瑞樹に付き添います。帰宅後も家事があり、本当に疲れます。

 瑞樹さんは手足にまひがあり、ほとんど動かせないが、喜怒哀楽を表情などで示すこともある。瑞樹さんのように、在宅で療養する医療的ケア児は全国で推計約2万人。新生児医療の進歩で多くの命が助かるようになり、年々増えている。2008年に生まれた瑞樹さんは、すぐに先天性の「サイトメガロウイルス感染症」と診断され、人工呼吸器を使用するなどの医療的ケアが欠かせなくなった。山本さんは当時、フルタイム勤務の会社員だったが、医療的ケア児を預かることができる保育園は周辺になく、復職を断念した。 瑞樹さんが15年に特別支援学校に入学して以降も、平日は学校の付き添いに明け暮れた。そうした山本さんの日常に変化を与えたのが写真だ。もともとは新生児集中治療室(NICU)にいる瑞樹さんの様子を家族に伝えるために、08年ごろから撮影を始めたのがきっかけ。その後、保護猫を預かるボランティアを始め、里親探しのSNS(ネット交流サービス)に猫の写真を掲載するとともに、時々、瑞樹さんの写真も織り交ぜるようにアップしたことが思わぬ反響を呼んだ。

── 写真集では、瑞樹さんのケアを通じて味わった理不尽や、不条理が約70カットにわたって写真で紹介されています。

山本 付き添いは覚悟していましたが、こんなに家に帰れないとは思いませんでした。瑞樹が小学校低学年のころ、自分の目の下がけいれんするようになり、適応障害と診断されました。学校に1カ月付き添うと、数週間は自分が学校に行けなくなり、瑞樹と一緒に学校を休むことを繰り返しました。

 4年生の時には、瑞樹の症状が一段階進み、学校から医療的ケアを断られました。約3カ月間交渉し、結局、私が付き添う形で学校での医療提供が再開し、「家に帰りたい」という私自身の思いと闘うのをやめました。学校に付き添っているのは瑞樹が生きている証しだから、「学校に来られることを楽しもう」と思うようになりました。

── その後、瑞樹さんの写真をSNSに載せるようになりました。どんなところに写真の魅力を感じたのですか。

山本 SNSで写真を見た人と、気持ちのキャッチボールができるのが楽…

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